ふと思い出す。もなの言っていた奈賀さんという人を。今まで何度かその名前を聞いたことがあった。高校時代のときも唯一その話だけは長文できたような気がする。あの頃はあまり興味もなかったけど。大人になって会うようになってから酒を飲むとよくその話を出してた。だから沢村が知らなかったほうが驚きだ。あんなにうるさく話す話題そうそうねぇよ。
一度高校時代にもらったっていう奈賀さんの名刺だけが入った名刺入れを見たことがある。それはそれは大切に飾られていた。もう呆れるほど。俺らで言う監督のような人なんだろう。だけど俺らでもそこまでしねぇよ。一人で缶ビールを煽っていると家の扉が大きな音を立てて締まる。なんだ、と思って振り返れば息を切らしたもなが俺を見つめていた。そして涙ぐんだまま飛び込んできてやったやったと騒ぐ。いったいなにがあったんだかさっぱりで唖然としている俺に気づかずとにかくもなは嬉しそうにはしゃぐ。あのね、やっとやっとひとつ夢が叶えれそうなの!奈賀さんの夢のお手伝いができるの!なんのことかさっぱりで返答に困り果てているがそんなこときにすることもなくもなはぺらかぺらかと今日のことを報告する。突然知らない番号から電話がかかってきたこと。それが奈賀さんだったこと。そして県の祭典のひとつの後継者育成委員会というものの仕事を手伝うことになったこと。それはもなが高校時代に学生として手伝ったもので、今度は学生ではなく、先生のような立ち位置で手伝うことになったということ。ずっとずっとお礼がしたいと思っていたらしい。だからこの話はもなにとってすごく重要なことなんだろう。こんなに嬉しそうな顔をされれば自然と俺まで嬉しくなる。ほんとかわいいやつめ。俺がぐりぐりと頭をこすりつけるといつもなら文句の言葉なのに今日はきゃっきゃ喜んで抱きついてくる。今日は相当テンションが高いらしい。何回ヤらせてくれっかな・・・。
「あのね、奈賀さんにね。私のつくった料理食べてもらいたいんだ。それに学生にも教えたいの。料理って、こんなに面白いよってだから精一杯頑張りたい。」
「お前ならできるよ」
「奈賀さんにね、会った時にいっぱいいっぱいお礼を言うんだ。」
それでね、あのね。と繰り返すもなが余りにも可愛くてまったくあったことのない奈賀さんって人に感謝する。たどたどしいようなはっきりしているような、まるで幼い幼女のようなもなをぎゅっと抱きしめる。
「俺も挨拶しに行こうかな。奈賀さんに」
「祭典当日来なよ。いっぱいおいしいものあるから」
「俺の彼女より美味しいもの作ってくれる人いないわ。」
「そんなことないよ!奈賀さんの料理って本当に最高なんだから!!」
「一応俺彼女のこと褒めたんだけどな」
「そんなことどうでもいいよ!ほんとに奈賀さんってね」
あー、だめだ。こうなったらこいつ人の話聞かねぇんだよな。苦笑しつつも最後まで話に付き合うのはやっぱ嬉しそうなもなの顔を見るのが嬉しいからだと思う。ほんと、どこまでも惚れさせられてるんだか。
「奈賀さんと俺どっちのほうがかっこいい?」
「奈賀さん!」
「よし、ベッド行くか。ちょっと運動しに」


人ばっか褒めてないで

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