「えぇ〜?!」
栄純くんの大きな声が響く。その目の前ではニヤニヤしている御幸と赤面してごまかすように笑う私がいた。あれからすぐに倉持に報告し、なにやら話を聞きつけた栄純くんたちが家まで倉持を引っ張ってやってきた。降谷くんも驚いた顔をして私を見つめている。かと思えばとなりにやってきて御幸から私を引き離す。自分の腕の中にまるでぬいぐるみを抱きしめるかのようにしてふん。と鼻を鳴らす。まるでお気に入りのおもちゃを奪い返した子供のようだ。春市くんは困ったような顔をしてこらこら。と降谷くんを止めようとするがかれはいやいやと首を横のふって拒否する。大人げない御幸まで怒り出し、私は大きくため息をついた。暁くん。そうよぶと暁くんは驚いた顔をして私を見る。もう一度そう呼ぶと今度はあわあわと慌て出す。そのうちに御幸の頭に手を伸ばしてよしよしと撫でてこの場を収めた。それを見た倉持と春市くんはあとでその時のことを猛獣使いと野獣と語った。
やっとくっついたか。みんなが寝静まってわたしと倉持だけの空間で、倉持が私にそう言った。そうだね。やっと、なのかな。倉持いつから私が御幸を好きだって気づいてたの?いや、気づいたのは割と最近だ。お前が熱出したとき。あの時、確信持った。やっぱりか。あれはミスったなって思ったもん。で、実際のところいつから好きだったんだよ。んー、いつからかな。俺結構鋭いほうなんだけどよ。全然わかんなかったし。それは正直自覚なかった時間の方が多いんだと思う。御幸の弱さを知ったとき、自分と重ねた。いろいろなことで悩んで悲しんでいた学生の私に。私には助けの手など伸ばされたのかわからない。伸ばされたとしても気づいていなかった。そりゃ支えようという手はいくつもあったよ。でも支えてくれるだけじゃダメだったんだ。あの時私は引っ張って欲しかったんだと思う。それができないなら一緒にその場にしゃがみこんで欲しかったんだ。御幸の弱さを見たとき、私にできたことはしゃがみこむこと。御幸を引っ張る力なんて私にはなかった。だけどいっしょにしゃがみこむことはできた。私はそうやって御幸を助けるふりをして、自分を助けていたんだ。過去の自分にもきっと同じことをしてくれた人がいるはずだ。気づけなかっただけだ。そう、想いたかったんだと思う。それから御幸と会う機会が増えた。御幸の隣はすこし、ううん。だいぶ居心地が良かった。強がりなくせに、ほんとは支えて欲しいと思ってるところとか。頑張ってる頑張りを認めてもらいたいこと。他にもいろいろ似ている部分があった。お互いそんなこと一言も言わなかったけど、私たちは案外似てるのだ。だからきっと御幸もわたしのことをよく呼び出したんだと思う。
これといった確信のあるものはない。けど御幸を好きだと自覚したのは結構前だ。たぶん2年くらい前。ふと思ったのだ。となりになんでこの人がいるのだろう、と。そんなことを考えていた時に自分の気持ちを自覚して、みなかったふりをした。幸いなことに自分の感情を封じるのは得意だった。どれだけ悲しいことも、私には溝の深い井戸みたいなのがあって、そこに全部全部押し込めてしまうのだ。その井戸に重い重いフタをすれば自分でも知らないうちにその感情が本当になかったかのようにできる。それは自分の育った環境が作り出した防御策だった。この気持ちを知られ、御幸に嫌われることを恐れた本能が衝動的に隠したのだ。だから普段御幸と一緒にいるときにそりゃ、顔はいいしときめくことはあっても恋のような感情は浮かばなかった。だからきっと倉持も気付かなかったんだと思う。
「お前案外難しいこと考えてるよな。」
「難しいというか、結構口ではヘラヘラしてても内心毒づいてること多いかも。なんでだろ。倉持とかの前ではないんだけどね、友達のはずの人にまでそんなことしてるときある」
「まぁ人間そんなもんだろ。俺たちの前で内心毒づいてないのはただたんに遠慮なく素直に言ってるからだろ」
「ああ、そうかも。」
私かなり倉持のこと信用してるんだ。素直に納得すると倉持にくしゃりと髪の毛を撫でられた。倉持も、私のこと同じくらい信用してくれてると嬉しいな。倉持みたいな弟欲しかった。ばーか。俺が兄貴に決まってんだろ。えー。お兄ちゃんは純さんがいい。またそんなくだらないことを言い合った


パンドラの箱

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