「私は倉持のことが好きだったの。」
「へ?」
「走ってる姿とか、無邪気な笑顔とか。倉持や栄純くんたちのそんな顔を見ることが好きだったの」
「おま、紛らわしい言い方すんなよ」
「わざと。ふふ」
でもね、御幸だけは違った。最初から御幸はどこか不安定で、心配なところがあった。私は御幸のそんなところが気になって目で追っていたのが始まりだったと思う。初めて会ったときの印象は自信家という感じだった。だからなんとなく苦手だなって思ったんだ。その次にあったときは最低な男。けど、それには理由があるってなんとなく気づいた。才色兼備。そんな風に生まれていないからわからないけど、そういう人にはそういう人の悩みがあるのだと思う。一緒にいるうちになんとなく気づき始めたそれに、目を瞑ることができず、ただ胸を貸した。支えきれるわけもないのに、落ないで。落ないでって何度も思いながらその手を掴んだ。たまに恋人ができたとき、やっと落ち着くかなってちょっと安心しながらもさみしい気持ちになった。そのときは気付かなかった。それが全ての始まりだって。御幸は恋人ができてもすぐにわかれる。遊び相手はすぐに切る。なのに私のことだけはずっと隣に置いてくれた。その理由を考えたとき、思いついたのが御幸にとって安心できる関係だからだと思った。その関係であるためには、この距離を変えてはいけないと思った。だから見え隠れしていたものに重い重い蓋をして、なかったことにした。御幸が笑ってくれるのが何より嬉しかった。泣いてる顔なんて、見たくなかった。ただ、笑ってくれれば良かったのだ。ただ単純に、それが嬉しかったのだ。特技なんて何もない、見た目だってなんともない、もしくはそれ以下の私だけど、御幸にとって支えになれているというなら、それ以上に嬉しいことはない。そう自分時言い聞かせて、それ以上求めないようにさせた。それ以上求めたら泣いてしまいそうだったから。自分が痛い思いをすると思ったから。それこそ、逃げだ。そうわかっていても逃げたかった。
あの日、真剣なあの目を見てから思わず泣きそうになる。それまで蓋していたものが一気に溢れ出てくるような感覚が怖かった。失いたくない。その一心で嘘をついた。それほど私にとって御幸は大切だったから。もう、私の中では大きすぎて、抜けてしまえば埋まらなかったから。倉持だって大切だし、抜けてしまえば悲しくて立ち直るのに相当時間がかかるだろう。そう、時間がかかる。生きていればいつかは埋まるのだ。たまに思い出す程度に。でも御幸は毎日毎日私の中に溢れている。
「御幸に、伝えなきゃいけないことがあるの」
「おう」
「そのあと、倉持にも言わなきゃいけないことがあるの」
聞いてくれる?ときくと当たり前だろ。バーカ。といって頭をわしゃわしゃと撫でられた。すぐに倉持は携帯を取り出して電話をかけて一言二言話すとすぐに切る。そして頑張れよ。とだけ言って家を出ていった。きっとくるんだ。あの人が。ここに。私の前に
「どうか神様・・・今だけ素直にならせてください」


どくんと心臓の音がする

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