それは久しぶりのことだった。ばしゃっとジュースを顔にかけられる。なんだと考える前になんとなく思い当たるのはふたりの顔。今回はどちらだろうか。目の前で目を潤ませている女性を見ながら大きくため息をつきそうになるのを我慢する。御幸くんを返してよ!ああ、どうやら今回は御幸の方らしい。まぁ、倉持はこんなかわいい系じゃないもんね。お姉様系だもんね。ううん?おかしいな。私の記憶が正しければずいぶんと御幸は彼女を作っていないはずなんだけど。いっときのお遊びの相手?いやいや、なんでそんな人が私のこと知ってるんだ。なんのことですか?というとあんたが御幸と一緒に歩いてるところ見たのよ!と叫ばれる。ああ、ストーカータイプでしたか。なんだろこの冷静さ。なれって恐ろしい。どうしようか悩んでいると女の人はいきなり目を大きく開き私の方に駆け出してくる。なんだと思っていれば御幸くん!と叫ぶ。振り返ればそこには御幸がいた。ついでに隣には倉持もいるのだが彼女は完全に無視していた。みゆきくんみゆきくん。と何度もなんども呼ぶ声を聴けば少しは可哀想に思えるかもしれないけど私いきなりジュースかけられたからね。全然そんな風に思えないわ。
とりあえず倉持に行こ。というと倉持が呆れた顔をして私のところまでくる。持ってたタオルで顔を拭こうとしてくれると私は視界の端に御幸が怒った顔をしたいたのが見えてあわてて駆け出してその手を引く。倉持!と大きな声で呼ぶと彼もあわててついてくる。女の子は御幸の目をみて固まってしまっていた。
走れるギリギリのところまで来ると足を止めて息を整える。く、苦しい。息ひとつ乱さないふたりが憎い。とりあえず家に帰ろうというと御幸は黙って私を抱き上げた。悪い倉持、今日はパス。おう。沢村と降谷には俺から言っとく。そういって倉持はさも当たり前のように去っていった。御幸?と声をかけると御幸は何も言わずに家に向けて歩き出す。恥ずかしいとかいろいろ思ったけどでも何よりあんな冷たい目をした御幸の顔を忘れられない。あれは存在すら認めないような目だ。何がそこまで怒る理由になったのかわからないけど御幸はとにかくあのときすごく怒っていた。家に帰ると早々に服を脱がされてシャワーを浴びせられる。御幸だけ服を着てるからなんだか少し恥ずかしい気持ちになった。御幸。と声をかけても返事はなくそっと腕を伸ばして抱きしめると私の背中に腕は回る。
「苦しい・・・?」
「・・・。」
「だいじょうぶだよ。わたしはずっとかわらずだから。だいじょうぶだよ」
ぎゅっと抱きしめるとぎゅっと抱きしめ返される。それがひどく切なく感じた。あまりにも悲しそうな御幸をみて思わず泣きそうになる。だいじょうぶ。だいじょうぶ。何度も繰り返して、何度もその言葉を自分に言い聞かせた。ビシャビシャになった御幸の服を脱がせて頭を洗ってあげると御幸はされるがままになって何も離さないし、動かない。久々だったから余計にきつかったのかもしれない。バスタオルで御幸の体を拭いてなんとか服を着せてリビングまで連れてくる。紅茶入れるから座ってて。といってソファーに座らせてキッチンに立ってお湯を沸かす。ティーポットに茶葉を入れて茶葉の缶を閉めるといきなり後ろから御幸に抱きしめられる。わっと驚いた声を上げたけど御幸は何も言わずぎゅうぎゅうと私を抱きしめる。文句を言おうと口を開いた瞬間思わぬ言葉を言われた
「好きだ」
ギュッと抱きしめられる腕が、その言葉と同時にもっときつく抱きしめる



こんなこときっと君は知らないだろうけど

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