応援席を見れば立ちぼうけているもなが見える。その隣にあの男はもういない。たぶん振られたんだろう。そしてあいつはまた、傷ついたんだろう。恋愛ってのはそういうものだ。けど、アイツがそれを素直に受け入れられるわけもない。その光景に安心しているのと同時に自分のこととかぶり嫌な気分になる。
「もなのやつ、断ったな」
倉持にそう言われてああ。と返すとお前も他人事じゃねぇから大変だな。といって笑う。まったく、その通りだから笑えない。他人事なのになんでおれがこんなひやひやしなきゃなんねぇんだよ。なんで俺じゃなくて、あいつの去ったところをずっと見つめてるんだよ。お前の視界に入るのはあいつじゃなくていいだろ。
試合が終わるともなからメールが入っていることに気づく。内容を確認すると一瞬意味がわからなくて目を点にする。たまたま覗き込んだ沢村がSOSって、もなさんになにかあったんですか?!と慌てだした。いや待て。このメールのどこにそんなのが書いてた。書いてあるのは意味不明なものだ
ショートニング
おいしくない
しょっぱさが足りない
というものだ。倉持も同じようにメールを見るが意味がわからなくて首をかしげていた。それでも沢村は絶対にSOSだといってひかないのでとりあえずバカの勘を信じて急いで家に帰るともながボロボロと泣きながらベッドに倒れ込んでいた。慌てて駆け寄ると手を伸ばして俺の方に助けを請うかのように必死に抱きついてきた。わんわんと声を上げてただ泣き続ける。まるで子供のようだ。だけどそんなところさえも愛おしいと思った。ああ、ほんとにあれはSOSのサインだったのかよ。沢村曰く、最初の文字のローマ字をみてSOSと判断したらしいが。俺じゃない誰かが気付いたっていうのが無性に腹立たしい。だけどもなが助けを求めたのが自分だというのはひどく嬉しかった
最近いきなりモテ期きすぎなんだよ。あの後輩といい、この間の男といい。なんでお前はいきなりほいほい男が出てくるんだよ。今まで男の影一つなかったくせ。もな。と俺が声をかけても。もうもながびくりとも動かない。すでに眠ってしまっているこいつにはきっとこの声は届かない。なぁ、お前は俺のこと好き?そんなこと本気できくことなんてできない。でも、もういい加減腹くくるしかなさそうだ。ここまで男がひょいひょい出て来て、次は何が起こるかわからない。それならいっそのこと、逃げられるかもしれないのを覚悟の上で攻めたほうがいい。逃げそうになれば捕まえればいい。すがりつくような声を出して、またこいつの優しさに漬け込めばいい。そのうちだんだんと俺のことしか見えなくなればなおさら美味しい。
そっと優しく頭を撫でてもなの耳元に口を寄せる。
「愛してる」
たったその短い言葉が何よりも情熱的だと思った


赤いバラ

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