ちらちらと視線が合うような気がした。気のせいかも知れない。だって、いくら近いとは言っても、席も何も知らないはずだ。なのにどうしてか彼の視線と重なり合っているような気がした。まるでずっと見てくれているような錯覚。私の優柔不断さが生み出してしまったものを。ぎゅっと握られている手に力が入る。私は彼の前で答えを出さなければならないんだ。そう思うと余計に重く感じた
試合の終盤になると握られていた手がそっと離される。ねぇ、もな。一つ賭けをしようよ。へ?次の沢村選手がボールを打てるかどうか。君の好きな方を選ぶといいよ。いきなりのことに戸惑っていると負けた人は勝った人のいうことをなんでもひとつ聞くこと。といってにこっと笑う。よくわからないけどとりあえず私は栄純くんを信じようと思う。彼がどんな選手か知らないし、見たこともない。けど、どんな人かは知ってるから。私は信じたい。打つ方に賭ける。というと彼はくすりと笑い。僕の勝ちだね。といって前を見る。驚いているまもなくあっさり栄純くんは三振した。もう言葉にならない。くすくすと隣で笑う彼に意地悪よ。というとごめんごめん。と謝ってもらったけどちっとも嬉しくない。くそう。栄純くんせめてかすらせてほしかった・・・!
「今からは素直になって。それが僕の命令。お願いじゃなくて命令だよ」
「素直になる・・・?」
意味がわからなくて首をかしげると彼は悲しそうに微笑んでゆっくりと口を開いた

「               」

その言葉を聞いた瞬間目を見開く。思わず横に振りそうになった首を彼は両手で私の頬を挟み、また悲しげに微笑んだ。僕だけしか聞いてないから。だから、ちゃんといって。ホントの気持ちとちゃんと向き合って。ホントはどうしたいの?どう思ってるの?そう言ってゆっくりと手は離される。私の目からはボロボロと涙がこぼれた。嗚呼が漏れ、両手で顔を隠す。ごめんなさい。ごめんなさい。何度もその言葉が出た。謝ることしかできなかった。だって、あなたの気持ちにはどうしても応えれないの。わかってた。あなたのことを、男の人として好きになることができないって。ホントはずっとわかってたの。だけど、だけど言えなかった。言うわけにはいかなかった。
「最初僕は君の素敵な料理をみて、欲望のままに自分のものにしてしまおうと思った。飽きたら捨てればいい。そんな気持ちだった」
でもね、だけど君をしって、君とはなして、君と過ごして、毎日が全然違う景色に見えた。僕は生まれてきた時からお金の汚い社会だったけど、君はあまりにそれとは疎遠で、無邪気だった。眩しくてたまらなかった。本気で君を好きになったのは初めてその無邪気な表情を見た、あの夜だった。それからずっとずっと、本当に好きだったよ。そういって彼の両手はもう一度私の頬に添えられる。そしてそっと額にキスをされた。
「だから、さよならだよ。」
君のおかげで、いろいろなことをしれた。人としても成長できた。何より、毎日が楽しかった。ありがとう。愛してたよ。本当のほんとに。どうか幸せになって。素敵な時間をありがとう。それだけをいって、彼はそのまま去って行こうとする。待って。その背中にそう叫んだ。だけど彼の足は止まることはない。その背中を追いかけようとした瞬間彼は振り返ってもう一度泣きながら笑ってありがとうと言った。そして本当に去っていった。


夢恋の一時が過ぎる

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