好きな人が自分のことを好きというのは奇跡である。私は一度だってそんな奇跡を起こしたことはない。だから、うまくいかない時の悲しみは少しは分かるつもりだ。だから、彼にも私じゃない誰かを好きになって欲しかった。この思いがどれほどエゴなものかわかってる。けど、でもダメなものはダメなんだ。私は彼をそういう目では見れない。
もな。今日は来てくれてありがとう。なんであなたがお礼を言うのよ。おかしな人。くすくすと私が笑うと彼は顔を赤くして慌て始める。最初のあのわがままな発言が嘘のように彼は素直な人だった。次第に彼の印象はいい方になっていた。けれどやはりどう頑張っても恋愛対象にはならなかった。野球観戦は初めて?と聞かれて素直に頷くとかれはいきなり張り切り出す。たぶんいい所を見せようとか思っているのだろうけどそんな事を考えるとまた変なことをしちゃうよ。なんて思っていると予想通り何もないところで盛大にこけた。恥ずかしかったのなかなかな起き上がらない。思わず笑ってしまう。大丈夫?しゃがみこんで声をかけると恥ずかしそうに目を潤ませて今にも泣きそうな顔をされる。まったく、男の子がそんなんじゃダメよ。そういって手を出すとかれは嬉しそうに笑い手を握る。可愛い人。こういう球場内の食べ物屋さんは全部レトルトなのよね。へぇ。詳しいんだねもなは。昔バイトしてたことがあるから。派遣で。バイト・・・。したことはないなぁ。そりゃ坊ちゃんだしね、していたほうが驚きよ。なんていうとむすっとした顔をしてすねられる。今十分活躍してるじゃない。と言えばでも父がいるからだ。と完全にすねてしまった。困ったなぁ。なんて思いながら彼の手を引いて歩いていると途中でアイス屋さんを見つける。そのままお店に入って適当に注文してお会計を済ませる。僕が払うよ。と言われたが無視だ。二つのカップを受け取り、一つを彼に渡す。これから学べばいいのよ。割り勘とか、ね。そう言ってアイスを食べるとかれは目を輝かせてアイスを見つめる。やっぱりこういうところのアイスは初めてなのだろうか。一口パクリと口に含むと感激しているのがよくわかった。こんなに子供っぽいなんて、最初は思いもしなかった。ほんと可愛い人だな。ご飯を適当に買い込んで自分たちの席に行く。そこはやはりお金持ちというべきかいい席をとっていた。一番前の真ん中。そうそう取れないだろう。本当はもっと静かに見れる席もあったらしいのだが私がそういうのを嫌がるかもと思って辞めたらしい。うん、そうやって相手のことを考えれるようになるなんてこの人も結構変わったな。えらいね。といって頭を撫でると子供扱いするなと怒られた。けどそうさせているのは自分自身なんだと気付いて欲しい。
試合が始まり、周りの客席から大きな歓声の声が飛び出す。私はその声を聞きながら選手たちを見つめる。そういえば御幸は捕手っていうやつなんだけどそれってどこのポジションのことなんだろう。ねぇ。な、なんだい?捕手ってどこにいる人のこと。捕手?ああ、それはキャッチャーのことだよ。ピッチャーはわかる?投げてる人でしょ?うん。そのボールを受け止めるのがキャッチャー。ほかにもいろいろな役割とかあるんだけどね。ふんふん。と頷いてキャッチャーのポジションに座っている人を見る。その姿は確かに頼もしく見えた。じゃぁ、ショートってなに?二遊間ってなに?次々に私が質問をするとお坊ちゃんは楽しそうに質問に答えてくれる。選手の紹介をいたします。とアナウンスがなる。そのアナウンスを聞いていると途中で思わず息を飲んだ。キャッチャー、御幸一也。確かにアナウンスはそういったのだ。そしてもうひとり、倉持の名前も上がっていた。この試合のチケットを見直すとチーム名が書いてある。でも私は御幸たちがどこに所属してるのかも、一緒にチームだったことも知らなかった。予想外のこの日、私は御幸の野球してる姿をであって生で初めて見ることになった。


運命はいたずらばかり

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