もなと喧嘩した。初めてのことだった。もう喧嘩するような歳でもねぇし、言い合うことはあってもそれとは別だった。飛び出していったもなをおうこともできず、その場に立ちほうけた。少ししてあいつが病人だったことを思い出して慌てて飛び出す。まずい。また体調悪化しちまうかもしれねぇ。御幸にも連絡しようとしたが繋がらねぇ。とにかく必死で探し続けた。けど一向に見つからない。どこだよ。どこにいんだよ。焦りながら走り回っていると携帯の着信音がなる。慌てて通話ボタンを押すと亮さんからだった。御幸の女うちで預かってる。しょっぱなに言われたのはそれだった。おかげでその言葉を理解するのに時間がかかる。理解してからは疑問ばかり浮かんだが言葉にできるほど俺は冷静じゃなかった。最初に聞けたのは無事ですか?!だった。あまりに焦っているのが伝わったのか亮さんはくすりと笑い。無事。今は寝てるけどね。と教えてくれる。それだけで少しだけホッとした。今から引き取りに行くと言おうとしたとき先手と言わんばかりに今夜はうちで預かるから。御幸にも話してるしお前は一旦うちに帰って頭冷やしといで。朝10時に駅のカフェんとこで待ち合わせ。遅れてきたら覚悟しなよ。それだけ言われて一方的に通話が切れる。口を挟む隙さえも与えてもらえなかった。
家に帰って冷静になれば自分でもなんであんなにしつこく言い続けたのかと反省した。今だってあいつが御幸のことが好きだろうとは思ってる。だけど誰でも言いたくないことや認めたくないことの一つ二つあるものだ。それなのに俺は無理やりその口で言わせようとしたんだ。自己満足のために。もなの言ったとおり、俺は自分にはできなかったことをもなに押し付けてあの日の自分から逃げ出そうとしていたんだ。誰も知らない、俺の好きな女。もう随分あってない。最後に会ったのは高校に入る前の春休み、青道に行くために電車に乗ったとき見送ってくれたときだ。泣きながら俺に思いを告げたあいつを俺はおいて青道に行った。好きな女を捨てて、野球に全てを捧げた。そのおかげで今じゃプロ野球選手。最高の仲間だっていた。充実した生活を送ってる。けど、たまに、無性に虚しくなる。会いたくなるんだ。好きだった女に。いや、今でも好きな女に。迷惑な話だろ。あの時は両思いだったとしても今は違う。もう何年も経ってあいつだって好きな奴ができただろう。なのに俺はいつまでも引きずって、女々しいやつ。なんとなくあいつらと俺たちをかぶせてしまった。素直じゃないもな。不器用な御幸。どちらも俺たちの関係に似ていた。だからこのふたりがうまくいけば、自分の中で何かが変わると思った。あいつのことも忘れられると思った。そんなわけねぇのに。
次の日、約束の場所に行って亮さんにあった。亮さんは開口一番馬鹿だね。お前は。といって俺にチョップをする。じんじんする。痛い。思わず少しだけ涙が出た。すると亮さんはもう一度チョップをする。何度も何度も加減なく。痛い。痛いっす。俺がそういうたびに亮さんはチョップをかました。情けない。こんな自分が。恥ずかしい。そんな俺の気持ちを見透かしたかのような顔をした亮さんは俺が泣きやむまでチョップを繰り返し続けた。お前もあいつも不器用すぎるね。そういってもう一度チョップされた。あいつとはたぶんもなのことだろう。思ってることを素直に言葉にすればいいんだよ。お前馬鹿なんだから考えるだけ無駄。あいつもごちゃごちゃ無駄なこと考えてたよ。亮さんの毒舌な言葉を聞きながら重大なことを思い出した。そういえばもなのやつ亮さんのこと怖がってませんでした?と聞いてみるとうん。と笑顔で返される。・・・・。どんまい。もな、お前気に入られてるみたいだぞ。亮さんの家に行って、弟くんに迎えられてもなの寝る寝室に入る。もなは驚いた声を上げるが即効で亮さんに怒られて黙り込んだ。気まずいのか視線を俺からそらす。そのときふと亮さんの言葉を思い出す。素直に、考えずに。俺なんでもなにあんなに怒ったんだっけ。自分と重ねたってのもちろんある。でもそれ以上に、俺はたぶん悔しかったんだ。なにか重要なことを隠されてることが。悩んでんのに頼ってくれないことが。くだらないことは話すくせに重要なことを言わないこいつに腹が立ったんだ。もっと俺のことを信用してもいいだろって、本当は言いたかったんだ
「しつこく聞いて悪かった!けど、悩んでることあるなら話せよ!そんくらい当たり前にする仲だろ?!」
違うか?!と逆ギレのように叫べば咄嗟にいえ、ちがいません。なんて返してくるそれをいいことにだろ!とまた叫ぶように言うともなは笑いだす。なんだよ。と不機嫌な顔をさせると何でもない。と言ってまたくすりと笑う。だからなんだよ。と言うと。と倉持の名前を呼んだ。
「ごめん。ありがとう。これで仲直りにしてよ」
そう言って手を差し出される。なんだかくすぐったい。そんな気持ちを隠すように仕方ねーな。なんて言って握り返したらもなは嬉しそうに笑う。つられて俺も笑った



君も僕も笑顔

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