久々に、もなから電話がかかってきた。いつもならありえないことに正直焦った。何かあったんじゃないかって。電話の最初も全然返事しねぇし。だけどなんとなく声を聞いていればわかった。これはいつもと同じ、理由のない電話なんだって。もなが同居する前にごくまれに電話がかかってくる。あれと同じ。俺で安心感を得ようとしてる。俺にあって何を安心するのかはっきり言って分からない。つか、怒らせる要素しか持ってないしな。人ににくまれることなんてよくある。だけど、その逆はあんまりない。それこそごくまれ、かなり希少だ。寂しくなった、か。あの家は広い。あいつ一人じゃそう思うこともあるだろ。女だし。意外とさみしがり屋だし。
「あ〜。・・・さっさと帰りてぇ」
もちろん野球は好きだ。好きなもんで食ってけるんだから幸せだと思う。俺の人生ってやつは。だけどこういう時のもなは野球の勝利よりレアなんだよ。野球は自分とそのチームのちから次第でどうとでもなる。だけどあいつの気まぐれな電話はその時しかない。今しか、ないんだ。もし、今俺があいつのそばにすぐさま駆けつけることが出来ていれば、あいつは俺を見てくれたかもしれない。そう思うと悔しいというべきか、悲しいというべきか。そんな感情になる。
野球ともなを比べれば、きっとおれは野球を取るだろう。もなだってそのことに気づいてる。あれで変なところかんはいい。そんな俺がもなを好きだなんて、言っていいとはとても思えない。そうわかっていて何度も冗談ぽく告白する俺はどれだけ欲深いのだろうか。まぁ、でもそうでなきゃキャッチャーなんて勤まんねぇけど。もなを幸せにする自信はある。ただ悲しい思いをさせる可能性は大いにある。こんな仕事だからスキャンダルとか多いだろうし。俺は浮気とかするつもりなくても、記事になれば事実も嘘も関係なくなる。そういったことで傷つけるかも知れない。泣かせるかも知れない。そうわかっているけど、分かっていても。俺はもながいい
自分勝手なのは重々わかってる。ほんと自分でもどうしようもない。そのくらいあいつのことが好きだ。いつからって言われると、はっきりとは分かんねぇけど。たぶん、自分で思ってるよりもはるかに、もなのことが好きなんだ。いつか野球のことすらほっぽってしまいそうで怖いくらいに。そんなことすれば、絶対にもなには嫌われる。きっとあいつは泣いて謝って俺の前から姿を消すだろう。そういう奴だって知ってるけど、それが俺にとって辛いってこと、あいつは知らねぇんだろうな。何をおいても自分を求めて。なんてセリフ、あいつが言うわけなんてないのに。言ってくれればなんて思うなんて。いつの間にか沢村の馬鹿がうつったか。あいつの馬鹿は天才的だ。移ったら二度と治らねぇ病だ。
迷惑な病だろ。けど、その馬鹿が羨ましい時だってある。きっとあいつだったらこんな時、俺にはできない何かをもなにしてやれるんだろうな。馬鹿になりたい。なんて思うなんて末期だろ。
「あー、早くあいつの作った飯が食いたい」
早くあいつの顔が見たい。




おなかがすいた


prev next

 

×
「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -