夢のような日だった。青道のOBに会えるなんて本当に感激した。おかげで仕事がすごく憂鬱になってしまう。幸せすぎたせいだ。普通の日常が辛いなんて・・・。贅沢な事を言うな自分!あれはそうそうない奇跡なんだ。あの幸せの時間をバネにもっと頑張らなければ。自分で自分に気合を入れてお客さんのもとへ歩く。いらっしゃいませ。こんにちは。なんて挨拶をしていつものように調理が始まった。
この時期、家に帰ると御幸がいないことが多い。夏のシーズンは野球は大忙しだから。それは甲子園でバイトをしていたから知っているし、不満もない。御幸にはさみしくなったら誰でも知り合いなら家に呼んでいいぞ。って言われてるけど、そんなこと出来るはずない。この同居に私の友人で賛成してくれる人はきっといないだろう。だからといって倉持や栄純くんは呼べない。同じく野球シーズンだから。そうなるとやっぱりこの時期はひとりぼっちのことが多い。飲み会とかも参加するけど、それでもなんとなく静かな家は苦手だった。こんな広いからだろうか、余計に寂しくなる。カレンダーを見て御幸がいつ帰ってくるのかを確認する。でもまだ二日も帰ってこないということがわかった。この期間実家に帰ろうか。いや、それはそれでどうしたってなるしな。あー、暇だ。うだうだしながらソファーに倒れこみ、もう一度カレンダーを見る。そしてもう一度顔をソファーに埋めた。
早く、帰ってこないかなぁ。
「一人の家って、嫌いなんだよね・・・」
外で一人とか、そういのは平気だけど。夜に家で一人って、すごく苦手。こんな広い場所ならとくに。御幸は、私が来る前までこの家で一人で普通に暮らしてたんだよね?こんなふうに、寂しくなったりしなかったのかな?よく言えば開放感がある家だけれど、こんなところで一人はさみしいよ。私なら。まぁ、あの人がそんなこというような人ではないけれど。心のどこかで、そう思ったりはするんじゃないかな。そんなことを考えていると無意識に御幸に電話をかけていた。プルルと耳元で電話の音が響く。ガチャ。そんな音がしてすぐにもしもし。と聴き慣れた声が聞こえた。さてだけどどうしようか。なんの理由もなく電話をかけてしまった。何から話そう?元気にしてますか?いや、これは違う。そんな長いあいだ離れてないし。じゃぁ、お疲れさま?それでもいいけどその後何を続ける?頭の中で必死に考えているともな?と電話越しに不安そうな声が聞こえた。慌ててもしもし。と声をかけると大丈夫かと聞かれたので大丈夫だよとすぐに返す。だけどどうした。と聞かれれば言葉に詰まった。別にどうもしない。それがきっと正しい答え。だけど何故かこんなことでさえ見栄を張ってしまってなんでもない。と返す。これじゃ何かあると言わんばかりじゃないか。自分に呆れる。こんなくだらないことで、どうして見栄を張ってしまうのだろうか。素直に言ってしまえばいいのに。その方がずっと楽なのに。あとで後悔するのは自分自身なのに。馬鹿だなぁ、私って。心の中でそうつぶやく。じゃぁ、ちょっと俺のくだらない話に付き合えよ。御幸の言葉の意味が一瞬分からなくて言葉に詰まった。理解したらすぐにいいよ。なんて上から目線で返す。練習の話とか、試合の話。今日危なかった場面。失敗してしまったこと。その他もろもろ、いっぱい御幸は話してくれる。その話を聞いているだけで、自然と穏やかな気持ちになれた。あと数分で日が変わるとなった時にそれじゃ、そろそろ寝るわ。と御幸の方から話を切り上げた。楽しかった気分が少しだけ下がってしまう。私も寝るね。と返すのが精一杯だった。おやすみなさい。ありがとう。そう言って自分から電話を切った。ちゃんとわかってる。くだらない話をしてくれたのは御幸の優しさだってこと。だからありがとうっていった。まぁ、言い逃げしたけれど。
というか、こんな時間まで突き合わせて何テンション下がったとか思ってるんだ私。むしろ本当に崇めるくらい感謝しないと。
「贅沢だよ、ほんと」
こんな贅沢ばっかりしたら、いつか、一人になったとき。餓死しちゃうじゃん。
贅沢太り
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