夏は野球は忙しい。それは甲子園でバイトをしていた時から知っている。だから御幸と会わない日が増えることに疑問を抱いたりはしない。というか、別にもし女の人と会ってて、いいことしてたって別にかまわない。だけどなんとなく今は人恋しくて、どんだけ疲れていても誰かに誘われるとその誘いをすべて受け入れていた。それが余計に寂しくさせてるとわかっていてもやめられない。この埋まらない隙間を、誰か埋めてよ。ぽっかり空いてしまった、この穴を。
もな先輩。そう声をかけてきてくれたのは後輩君だった。夏になってからやけに彼は私を食べに誘ってくれる。最初こそ同期と3人だったがだんだんと二人で食べることのほうが多くなった。食べに行く場所はおしゃれな場所から質素な場所まで何でもアリ。一度は屋台のラーメン屋さんで立ち食いを経験した。意外とあれいいよね。楽しい。なかなか味わえない経験だし、青春って感じがする。まぁ、青い春なんてとうに過ぎ去りましたがね。今日は旨い居酒屋見つけたんでそこ行きましょうよ!後輩君が探し出してきたご飯屋さんに二人でいって適当に注文。お酒を飲んでご飯を食べて。それがいつものことになっていた。最近後輩君と食べに行くの増えたねぇ。なんて同期の子が言っていたが別にいいじゃないか。先輩と後輩なんだから仲良くすることに越したことはない。ねぇ。と後輩君に振ると後輩君は少しだけむくれた顔をしていた。子供か!と突っ込みたかったがちゃんと我慢した。突っ込むと面倒なことになりそうな気がしたから。
そういえばこの前先輩元気ありませんでしたね。お酒を飲んでいるといきなりそんなことを言われて首をかしげた。いつのこと?と聞くとちょうど幼馴染と出かけた次の日を言われた。確かにあの日はちょっと気分がしずんでいたなぁ。同期の子にも言われたっけ。なんて言うと後輩君は気づいたの俺だけじゃないんすか。とつぶやく。そりゃまぁ、あの子目ざといからねぇ。勘もいいし、あれに勝とうというのが無理な話だ。あれに勝てるのは人の心を容易に読み取る変態メガネくらいだろう。そういえばもな先輩は男友達とかいるんすか。また唐突な質問だったけどいるよ。と即答する。そしたら少し驚いた顔をされた。いったい後輩君の中で私はどんなふうに描かれているのだろうか。男を知らない花も恥じらう乙女だったりしたら笑うんだけど。いや、ありえないか。かれこれ2年くらいの付き合いだ。そのくらいすれば私がそんな乙女じゃないことはわかるはずだ。よく一緒に飲むくらいだしね。そういえば後輩君の恋ばなって聞いたことないな。ふと思ったことをつぶやくとすごい驚いた声を上げて俺ですか!?と慌て始める。ああ、わかった。好きな奴いるんだコイツ。どんな人がタイプなの?と聞くと少し困った顔をされた。どういうことだその顔は。俺、好きなタイプって前までずっと一緒だったんすよ。へぇ。どんなの?なんか女の子らしい女の子って言えばいいんすかね?笑う時も先輩みたいに思いっきり笑うんじゃなくて含み笑いとかして。食べ物食べる時もちまちま食べて。なんかうさぎみたいなイメージの子です。うわぁ、それ絶対わざとだよ。作り物だよ。世の中にウザギ女子なんて存在しないよ。男はみんな騙されやすいんだよ。ああ、先輩みたいにそういう女子の裏を言ったりしません。自分で言ったら驚くよそれ。私だって猫かぶってる時に猫かぶってますなんて言わないじゃん。取引先の接客の時とかさ。ああ、そうっすね。なんか典型的すぎてつまんないな。もっと面白い趣味だったら笑えたのに。今好きな人いるんすけど、その人全然このタイプに当てはまらないんすよ。ほんとに!?どんなどんな??興味津々で聞けば後輩君は少し恥ずかしながら鼻下をこすってその好きな女の人のことを話してくれる。すっごい美人とかでも、可愛いとかでもないんすよ。笑い方だって大きな声上げるし、食べるときだって頬張ってリスみたいになってますよ。甘えてくることもないし、むしろ頼れ!みたいな感じのこと言ってくるような人で。危ないことがあっても一人でどうにかしようとして、すごい心配になるし。俺これでも結構わかりやすくアピールしてるのに全然気づいてくれないし。つかわざとじゃね?って何度も思ったけどまじで気づいてなくって。ほんとたまに泣きそうになるんすよ。はっきり言って後輩君趣味悪いね。私がそう言うと後輩君は目を点にする。だってそうじゃないか。今までうさぎ女子(作り物だとしても)が好きだったのになんでそんなバカっぽい人好きになっちゃったんだ。意外と後輩君も馬鹿なんだねぇ。としみじみした感じを出して言うとなぜかチョップされた。私先輩!と言っても知りません。と言ってすねられた。なんだこの子。情緒不安定だな。いや、恥ずかしいのかな。こんな話して。でもいいな。ポツリとそうつぶやくと後輩君はえ?と聞き返してくる。だって、泣きたくなるくらいの恋、後輩君は出来たんでしょ?ま、まぁ。私の言いたいことがわからないであろう後輩君は困った顔をして頷く。まぁ、そうだよね。こんなこと羨ましがるのも馬鹿らしいけどね。
「私、一度も泣きたいくらいの恋をしたことがないんだよ」
だから羨ましい。もう一度そうつぶやくと後輩君は目を見開いた
「できますよ。先輩ならきっと。素敵な恋が」
その場の空気を読んでの言葉だと分かっていてもその言葉が少し、励みになって。本当に嬉しかった。だから素直にありがとう。と返した



恋に恋する

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