もなと知り合ったのは高校の時。次あったのはプロになってから。というか俺はすっかりもなのことなんて顔も忘れていた。当たり前だ。一瞬あっただけの奴のことをいつまでも覚えてるような人間じゃない。たまに御幸がメールしてて。ああ、そんなヤツもいたなって思った程度。だからあの頃はこんなにも仲良くなるとは思ってなかった。特に特徴もない、普通の女。ちょっと家庭的で、子供好き。のくせに体力はそんなないから長くは一緒に遊べないとか。沢村たちに甘甘で、どうしようもない。あと警戒心が薄すぎる。普通におれのいえに泊まりに来るか?女ひとりで。こりゃあいつが、御幸が心配するわけだ。まぁ、飲みに誘ってんのは俺だけどな。なんとなくこいつと話すのは落ち着くっつうか、ホッとする。プロ野球選手っつうだけで人と距離もできて、正直めんどくせぇことが多い。そんななか、変わらないこいつにどこか安心しているんだと自分でもわかっている。金目的でもなく、俺のつて目当てでもない、ただ普通に普通の人として接してくれるから一緒にいて気楽なんだ。だから今日もこいつを呼び出して、時間を潰す。待ち合わせのお店で先に席に座っているもなはどこかぼーっとしていた。俺がよぉ。と声をかけるとへらりと笑いお疲れさま。といたわりの言葉を言う。そのことにまた安心し、いつものように向かいに座る。それからは飯食ってお互いの仕事の話をして、くだらない愚痴を言い合ったり、一方的に沢村のかわいさというものについて語られたり。どれもこいつらしい話ばかり。俺も俺でその話を真面目に聞いてこうだああだと意見して、たまにちょっと大きな声で言い合って、まるでガキのやりとりのようなことをする。これが俺とこいつの関係だ。
飯屋を出てフラフラと歩くもなの襟首を引っ張り、駅の方まで歩く。まだ飲み足りないと文句を言われるがこれ以上飲ませればあいつに何言われるか。こっちのみになれっての。
「お前、なんで御幸と付き合わねぇんだよ。収入だって安定してるし、仲いいだろ」
「またその話題ぃ〜?いい加減飽きてよねぇ、もぉ」
この話題を振るといつももなは嫌そうな顔をする。いい加減うざいと言わんばかりに。それでも懲りない俺も俺だな。でもホントに分かんねぇんだ。なんでこいつら付き合わねぇんだよ。つかむしろ結婚しちまえばいいじゃねぇか。何が不満なんだよ。と聞けば全部と返ってくる。何に文句があんだよ。性格を除けばいいものばっかだろ。そう言うともなはけらけらと笑って俺の隣を歩く。性格は別に嫌いじゃないよ。は?一瞬思考回路が停止する。お前趣味悪いな。俺が言えたのはそれだけだ。もなはむっとした顔をして失礼なこと言わないでと怒る。事実じゃねぇか。あいつの性格いいとかいったら絶対Mだろ。私が御幸とそうならないのは、なりたくないのはタダ・・・・。タダ?・・・。なんでだんまりになんだよ。・・・・。おい。・・・・。おいって。いや、言いたいことを忘れた。は?冗談だろ?もなの顔を覗き込むと本気で難しい顔をしてうんうんと悩んでいる。ああ、こいつマジかよ。言いたいことをすぐ忘れるって・・・マジなのか・・・・。私の代わりに思い出してよ倉持くん。アホか。んなことできるかよ。つか、お前また戻ったよな。俺がそう言うともなはきょとんとした顔をする。呼び方。と言えばああ。と頷いた。くんとかお前に言われると気持ちわりぃからやめろ。とこの際はっきりと言うと案外素直にわかった。と返ってくる。なんだ。前までなら回りくどく断られていたはずだ。そうじゃないってことはそれくらい俺ともなの距離も縮まったんだろう。友人として。私もなんだか君付けより呼び捨ての方がしっくりくる。ヒャッハ。俺なんか下の呼び捨てだからな。それ最初に苗字がわかんなかっただけでしょ。お前だって俺のこと忘れてただろ。ちゃんと覚えてたよ。怖いヤンキーって。誰がヤンキーだ。お前のあこがれの青道の選手だぞ。青道のユニフォーム来てないとわからないわ。今俺がそれきたらコスプレだぞ。確かに。どうせならメイド服とか着てよ。面白そう。あ、チャイナ服もいいな。アホか。てめぇがやってろ。私警備員ならしたことあるよ。バイトで。マジかよ。似合わね。自分でも思った。すっごいあれ突っ立ってるだけでつまんなかったし。でも楽な仕事じゃね?違うよ。立ってるだけっていうのは人間の本能がすごく嫌がることなんだよ。超辛い。暇。警備しろよ。道案内したよ。方向音痴だろお前。他人まで迷子にさせる気か。地元だもん。ちゃんとわかるし。それからまたくだらない話。その頃にはすっかりあの時のもなのセリフのことは忘れていた。こいつがあの時本当は何を言おうとしたのか、聞くことはなかった



貝殻の中に入ってる

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