もなさんは大恩ある相手だ。あの時のことは一生忘れねぇ。あのときこの人が女神に見えた。ああ、今だって見える。おはよう栄純くん。エプロン姿で朝一ご飯を用意してくれる人がいる。それはとても癒しの時間だった。惚けている俺を倉持先輩や御幸先輩が馬鹿にしたように笑うが気にしねぇ。はいどうぞ!と自分の前に出されたご飯は圧倒的に先輩たちより豪華だった。俺だけじゃなく、春っちや降谷も。降谷と一緒というのが気に入らない。もちろんそのことに倉持先輩は文句を言うがもなさんの都合のいい耳には聞こえなかったらしい。朝イチからひたすら俺たちに構ってくる。俺はそれが嫌いじゃなかった。ニコニコと笑うもなさんを見ているのは、案外気分のいいものだった。だからといってこの人に恋愛感情があるわけではない。そう、クリス先輩のような感じだ。あの人ともまた違うけど、それに近いと思う。だから俺は出来ることならもなさんをクリス先輩に直接会わせたい。先輩にも俺の話だけじゃなくて直にこの人に会って話を聞いて欲しい。きっと仲良くなれると思う。だってどこか似た者同士だと思うしな。
「つかもなってこんなにエプロン似合う女だったんだな。驚いた」
「なめないでよ倉持。割烹着すら高校生の時に似合いすぎて怖いって友達に言われたからね!」
それは褒め言葉なのか?まぁ二人してケラケラ笑ってるからいいけどよ。そういえばもなさんと倉持先輩も結構仲いいよな。たまに俺抜きで二人で食べに行くときもあるし、こうやってよくふざけあうし。御幸とも仲良さそうだけどなんか違うんだよなぁ。なんかこう・・・・ふわふわもやもやぐちゃぐちゃ・・・ううん。言葉にできねぇ。難しいことを考えているうちに眉間に皺が寄った。それに気づいたもなさんが俺の額をツンツンと突く。可愛い顔が台無しよ。そんなふざけた言葉を言ってふんわりと笑う。その笑顔を見ると今考えていたことがどうでもよくなった。大したことでもねぇしな。そのあとはまたいつも軽口を叩く。もなさんは倉持先輩や御幸に対しては少しばかり意地悪だ。俺たちには甘甘だからその反動のように。だけどそれがきっとこの人達にとって普通の関わり方なんだろう。それ以外を想像することができない。
「そういえばもうすぐプロ野球のシーズンでしょ」
「おお、よくお前が知ってたな。今結構本気で驚いた」
「沢村君が教えてくれたから。試合見にきませんかって誘ってくれだんだ」
沢村が?倉持先輩は驚いた顔をする。なんでそんな顔をするんだよ。別にいいじゃねぇか。ちょっといいとこ見せたいだけだよ、もなさんに。あの時あなたが助けた選手はこんなふうに成長しましたよって見せたいんだよ。まぁ、それは断られたけどな。一緒に見に行ける友達がいないって。で、どう答えたんだよ?お前は。御幸の声が少しだけ低くなるのがわかった。これは怒ってるんだとすぐにわかる。俺たちには。もなさんは別だ。もしかしたらここで煽るようなことを言っちまうかも・・・。そう考えると少し冷や汗をかく
「残念だけど行かないよ。私あくまで青道のファンだし。沢村君のことは好きだけど、一緒に見に行ける友達もいないし。流石にあの中一人で埋もれる気はないわ。それに野球のある日って大概仕事あるし」
でもなにか特別な試合は別よ。そういう時はちゃんといってね。沢村君。降谷くんも春一くんも。もなさんがまたにこりと微笑む。俺は素直にこくりと首を縦に降っていた。
「お前、俺の時はなんだってこないんじゃなかったっけ?」
「いくわけないでしょ。なんで御幸の仕事場なんて見ないといけないのよ」
「じゃぁ、俺の来いよ」
「嫌よ。私スポーツって観戦するよりもする方が好きなの。下手でも」
「じゃぁ、いつか青道のみんなが集まれる時があって、みんなで試合を組んだときは見に来てくれますか?」
春っちの言い出したことにもなさんは驚いたように目を見開いたけどすぐに嬉しそうに笑いそんな夢のような出来事ならぜひ。と言って笑う。あ、今回一番の笑顔だ。その笑顔を自分じゃない人間が作ったというのが少しだけ、悔しかった


シワの寄った裾


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