もなさんはいつもいつもニコニコ笑っている。女の子らしい人、と思えばそうでもない。やることなすこと危ないことばかり。そこらへんの男よりも肝が据わっていると思う。彼女にそんなことを言えばきっと否定されるだろう。僕の過剰評価だとかきっという。別にそんなことはないと思う。それにその肝が据わっているというのは褒めているようなそうでないようなものだから否定する必要もないのに。もなさんとの出会いは甲子園球場。青春真っ只かなかのとき、彼女は現れた。迷子になった栄純君を連れて。本当にあれは感謝してもしきれない。あの時栄純くんが帰ってこれなければきっとあの結果は残せなかっただろう。だから今でも僕は彼女に恩返しがしたい。いつか彼女の力になって、あのときのお返しをしたい。そんな僕の想いなどつゆ知らず、もなさんはいつもいつも僕たちに会うたびに何かしらお土産と言ってお菓子などを買い込んできてくれる。栄純くん喜んでるけど完全に餌付け状態だよ。でも喜んで受け取るともなさんが嬉しそうに笑うから、あまり無碍にはできない、というのが僕の心情だ。
「春市くんだーいすき。すっごくすき。もうアイラビュー」
酔ったもなさんはいつもこうだ。僕と栄純くん、それに降谷くんを抱きしめてきゃっきゃと嬉しそうに笑う。そんな彼女の姿を見て一人面白くなさそうな人にいつこの人は気づくのだろうか。というかなんでここまであからさまなのに気づかないの?あの栄純くんでも気づいてるのに。わざとなのかな?いや、でももなさんに限ってそんなことは・・・
「御幸先輩が見てますよ」ととりあえず言ってみるともなさんはきょとんとした顔をして僕を見る。まるでそれがなに?と言われているようだ。いや、きっとそう言ってるんだろうな。やめてくださいお願いですから。僕が後で睨まれるんですよ。
彼女は結構変わっていると思う。あの御幸先輩をみて特に大した反応もしない、お金を持っているからといって媚を売ることも奢らせることもない。割り勘、というか後輩の僕たちにはお金を払わせない。彼女のルールらしいがそれはそれでとても申し訳ない。
正直言ってもなさんの外見は普通だ。可も不可もない。前に少しポッチャリなっていたかな。でも今は戻った。というか夏は減るんだよね、本人が言ってたけど。で、冬太りがやばいらしい。稼ぎだってきっと普通だと思う。特技は料理かな?あと人の話を聞く。今だって栄純くんの話を楽しそうに聞いている。まぁ体外がクリス先輩の勇姿についてだ。今だって結構有名な人なのにもなさんは全く知らなかった。この人はかなりそういったことに疎い。御幸先輩のことだって大人になって再会してから本人が自分の職業言うまで知らなかったくらいらしいし。どうやったらそこまで疎くなれるんだろう・・・・
「いいなぁ。私も一度くらい青道の試合生で見たかったなぁ」
「すごかったんすよ!もうほんとクリス先輩なんて」
「お前クリス先輩のことしか言ってねぇよ」
「ヒャッハ!もな、俺だってその青道の選手だぞ。もっと尊敬しろ!崇めろ!うまく媚でも売れたら先輩たちに合わせてやるぞ?」
倉持先輩がけらけらと笑いながらそう言うともなさんはお腹を抱えて笑い出す倉持に媚び売るなんてありえないと。彼女らしい返答だと思った。そしてその答えを分かっていた倉持先輩はまた楽しげにけらけらと笑う。きっと倉持先輩はもなさんのそういうところが気に入ってるんだろうな。自分からご飯に誘うくらいだしね。御幸先輩に内緒で。
「媚び売るならぁ、栄純くんとか春市くんとか、降谷くんにするから。この癒しを手に入れるためなら私なんだって出来るわ!」
そう言ってまたギュッと俺たちを抱きしめる。あわあわと慌てると可愛い。と連呼された。僕男なんだけどなぁ・・・。それに一応ここ男の家だし、女の子一人なんだけど。もなさんそういう危機感ないのかな・・・・。ちょっとこういう時心配になる。この人栄純くんと同じで素直だからすぐ騙されやすそうだし
すこしするとだんだんともなさんはウトウトし始めて首がかくんかくんと揺れる。体が傾きかけ、危ない。と思ったときには御幸先輩が自分の腕の中にもなさんを閉じ込めていた。まったく、こんなところで寝るな馬鹿。そうは言っているのにその目はとてもいとおしげだった。なんでもなさんは気づかないのだろうか。こんなにも愛されているのに。
「お前も不憫だなぁ、御幸」
「薮から棒になんだよ」
「もなのこと、好きなんだろ?女として。でもよぉ、完全に片思いじゃねぇか」
ヒャッハ!と笑い出す倉持先輩をみて御幸先輩は困ったように大きくため息をついた。
「しょうがないんじゃね?それでも好きなんだしさ」
その言葉を聞いた瞬間僕たちの方が一瞬で暑くなる。そういう顔はもなさんの前だけでして欲しかった・・・・


眠る平民

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