あれだけの気合の入っているチームでも鳴の球になかなか手が出せなかった。鳴も沢村賞とかかかってるって騒がれてたからかなり本気なのはわかっていた。けど、こうも差が出るだろうか。くそっ。負けるわけにはいかねーのに、3点リードするどころか、リードされちまってる。ここから逆転って、まさにどん底からの大逆転劇だろ。
「御幸お前ちょっと落ち着いて冷静になれよ。お前が冷静にならなきゃ勝てるもんも勝てなくなんぞ」
「わかってる!けど、けど冷静になれっつってもこれに俺が何かけてるか知ってるだろお前」
「お前の命より重要そうなことだな」
「その通りだよ洋一君!まじでどうしよ?!俺この試合負けたら廃人になりそう」
「御幸先輩なんでこういう時そう後ろ向きに考えるんすか?いいほうに考えたほうが気楽っすよ?」
こてんと沢村が首をかしげて俺は頭を抱えたくなった。次のかいからはこいつが投げるんだよな。なんでこいつこんなに能天気なんだよ。他人事だからか?言っとくけど俺とあいつがうまくいかなかったらお前らだってなかなか会えなくなるんだからな!なんて考えながら一度深呼吸をして自分を落ち着かせる。沢村だけにはこのことナイショだしな。ほんとにこれ以上の失点は許されない。今は冷静にならなきゃいけないんだ。もう一度息を吐きだし、落ち着かせているとそういえば伝言預かってるの思い出しやした。と沢村が何気なく言う。お前伝言忘れんなよ。誰からの何の伝言だ。一応聞いてやる。もなさんからっすよ。一応頼まれたのでつたえてさしあげやす
「結果にこだわらず、試合を楽しんで」
それだけの言葉。だけどその言葉がまた俺にはうれしかった。ああもう、ほんと好き。にやける頬が抑えきれない。試合の結果ばっかにこだわってた。だって、結果でないとお前を失うことになる。そんなの嫌だ。なのにお前はさ、試合楽しめっていうんだな。確かにいつもならすんげぇ楽しんでたよ。だってこんなにも倒しがいのあるやつとやれれるんだもんな。そっか、すっかりわすれてたわ。一番大事なこと。
良い顔になったな。と倉持に言われまぁ、マイスイートハニーの伝言聞いちゃったから。なんてにやけて言うとうぜぇと怒られた。別にいい。もう今の俺はどんなことにも負ける気がしない。俺が楽しまなくて、あいつが楽しむわけないもんな。あいつが好きな俺であるために、俺が俺であるために、この試合ほかの雑念なんか捨ててただ挑戦者として戦う。勝つために、全力を尽くす。それだけだ。
「初球大事だぞ沢村。丁寧にそれでもインパクトがあるようにこいよ」
「わかってやすよ!何年あんたとバッテリー組んでると思ってるんすか!」
「そんな沢村に勝てたらご褒美でいいお知らせがある」
「な、なんすかそれ?!」
今回の俺たちのことを唯一聞いていないのが沢村だ。なぜならこいつはもな大好き過ぎて邪魔をしかねないという倉持と俺の判断からだ。なぜ倉持が今回のことをすんなりと承認したかというとこの話を俺が教えたときにはぶちぎりしたがそのあともなが速攻で連絡してお兄ちゃんお願いはーと。的なことを言っていたからだ。彼氏の目の前で違う男に頼るっていうのはずいぶんと言い根性していると思わねぇ?なんて倉持に不満をぶつけるとあいつはそんな言い方してねぇし、お前じゃ頼りなさ過ぎたんだろうな。ときっぱり言われてしまった。
「つかお前もヒット打たねぇと考えてる作戦できねぇぞ」
「わかってるって。でも鳴のやつ、完全に俺のことつぶしにかかってんだよな・・・」
あいつもあいつで大事なものかかってるからな。勝負しに来ないのもわかるっちゃわかる。だけどあいつがそんなタイプだっただろうか。答えは否だ。ならそれらも作戦と考えればここから勝負球を投げてくる可能性は大いにある。あと残り3イニング。とりあえず同点にはしねぇとな。向こうの攻撃から始まり、俺らは沢村に投手を任せ守備位置につく。バックのみなさんおべがいしやす!と叫んでるいつも通りの沢村を見てなんだか深くうだうだしていた自分が馬鹿らしくなる。そして試合が始まり、ギラギラとした目が自分のほうを向けば気持ちは高ぶってくる。ああ、これだから野球はたまらない。沢村のボールはきれいに俺のミットにいい音を立てておさまった。


ナイスボール


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