目を覚ませば、隣には見慣れた女がいた。いつの間にか俺に抱きついてるし。かわいいやつめ。ニヤニヤと笑みが漏れる。この女の名前は久留野もな。特別秀でたところはなく、外見も中の中だろう。ちょっと肉付きはいいかな。ぷにぷにしてて気持ちいい。なんて言ったら怒るだろうな。そう考えるとまたニヤニヤと笑ってしまう。もなとの出会いは高校時代。甲子園に出場したとき、沢村が迷子になったときのことだ。勝手知る土地じゃない、未知の場所。そんな場所で沢村を探すのはかなり難しかった。しかもあいつ馬鹿だからその場にじっとしているタイプじゃねぇし。どうするかと困り果てていたとき、沢村は戻ってきた。コイツに連れられて。最初にすぐに倉持が沢村を締めるのをみて彼女は一瞬焦った顔をしてあわあわと慌てる。服を見ると茶色のポロシャツにジーパン、とちょっと女らしくない格好。いったい誰だ。と思ってじっと見ていると首からパスケースが下がっているのが見える。ということはここの職員か。それにしては幼い。話を聞けば困っている沢村に声をかけ、ここまで連れてきてくれた上に、水まで分けてくれたらしい。しかもペットボトルとかじゃなくて自分のマイボトルを。女のボトルを気にせず口付けるこいつにも呆れるがそれを平気で渡したこの女も女だ。そう思った。とりあえずお礼をと思って肩を軽くたたくとビクッと肩を跳ね上げられ驚いた顔をされたのをまだ覚えている。そのあともすっごい警戒してさ、メールもなんか素っ気無かった。いや、別に短文とかじゃないけど他人と一線を引いてるメール。俺いけめんなんだけどなぁ。なんてふざけて送ったときはそうですね。とそれこそそっけないメールが帰ってきたこともあったっけ。最初は興味本位。甲子園という俺たちにとっては夢の場所の近くに住んでいる人間にそこではどう思われているのかとか聞いてみたかったっていうのもあった。残念なことにもなは野球に興味はないらしく、あまり甲子園に興味はないらしい。そこの地域の人間は中連体という行事で小中で甲子園の土を普通に踏めるらしい。そんな羨ましい話があるのか。と思った。けどもなみたいな甲子園に魅力を感じない人からすればなぜわざわざそのために体操などを覚えなければいけないのか理解できないらしい。変な奴だった。高校卒業してから、お互いにお金が出来てから数度会う約束をした時も、もなは俺をそういった色目で見ることはない。大人になって俺の家に来るようになってもそうだ。俺がだくようになっても。もなの中では俺は親友の線を超えないらしい。それが俺には歯がゆいってきっとコイツはかけらほども気づいてない。毎回彼氏ができたかって聞くのにどれだけの勇気を使ってると思ってんだ。早く、俺を見ろ。早く、気づけ。
「とりあえずしばらく仕事いかせるのは危ないよな・・・。つっても休めるかどうかは別問題だしな。家までついてこられたら取り返しがつかないことになるかもしれねぇし」
つってもこいつがそんなことを言って聞くような人間でもない。だったら危ないのは行き来なんだからその行き来を安全にすればいいんだろうが俺は仕事詰まってるしな。それに俺が休むなんて言ったらこいつ二度と連絡してこないかもしれない。俺はコイツの家も知らねぇし、そうなると厄介だ。どうするかな・・・・。しばらく考えるがあまりいい案が浮かばない。ちらりともなを見れば気持ちよさそうに寝ている。なんかいいな、こういうの。となりで、好きな奴が安心して眠ってるって。なんて考えてはっとする。同居すればいいじゃねぇか。このマンションは警備しっかりしてるし、怪しい奴のことを話しておけばフロントで捕まえられる。もなの仕事場までここからならそう遠くないし、仕事まで一緒にいれる。名案だな。さて、これをどうやってもなに承諾させるかが俺の策略の腕次第ってとこか。難しいことごちゃごちゃ考えさせて上手く丸め込めばいい。案外こいつ馬鹿だし。人の言うことすぐ信じるし。俺はそのくらいの信頼はもらってる。だからこそできるだろう。そうすれば大体のもなのことがわかる。男が出来た時も。好きな奴が出来た時も。何より、今よりもずっと、長いあいだもなと居られんだ。これ以上いいことはない。





こっちを向いてよハニー

prev next

 

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -