飛び出したものの行く当てもない。何も持たずに飛び出したからどこかに留まることもできない。携帯すらなくて誰とも連絡の取りようがない。しかもこの寒い時期に薄手のまま飛び出してしまうなんてほんとにバカすぎる。というか、なんで逃げ出してるんだ私。御幸にちゃんと言えばいい。それで、終わりを告げられたとしても、正直に言うべきことなのだ。けど言えなかった、言わなかったのはきっとわたしはどうしても御幸を失いたくないと自分勝手にも思っているのだろう。
とにかく寒い。コンビニにでもはいるか。でも長居できないし、あったかいところから突然出たらもっと寒く感じるだろうし。でも外いたら凍死しそうなくらい寒い!とりあえず人気のないところにいったらあとあと怒られるし、明るい道を歩き続けるしかない。ぶるぶると震えながら一歩一歩ゆっくりと歩く
外にいてもほんとによくないから誰か無断で家に訪れそうな人を考えてみる。クリスさんの家は、遠いし、何より恐れ多い。亮さんは怖いので無理だ。家知らないし。純さんは電車で行く距離。倉持はまだオフシーズンじゃないし、頼れない。栄純君はまだ確か寮だったはずだ。うーん、行くところないなぁ。ここからじゃ地元の友達のところとか帰れるわけないし、こっちの友達も家が遠すぎる。困ったなぁ。本格的にこれはやばいかもしれない。迷惑な客になってもコンビニに居座ってみようか。で、ショッピングモールとかがあく時間に移動してそこの椅子に座って休憩してみるか。いや、家に帰るべきだ。逃げ続けて何の意味がある。うわー。と誰も周りがいないことをいいことにその場で頭を抱える。
「ふざけんじゃねぇぞてめぇ!!!」
思いっきり頭を殴られその場に今度は頭をかかえたまましゃがみこむ。い、痛い・・・・。冷えた体には痛すぎる攻撃だ。涙目になって痛みに耐えているとそんなカッコしてるから体が冷えちまってこのくらいでもいたくなんだろこのバカ!と言いながら上着を着せられ無理やり腕を引かれ後部座席に詰め込まれる。毛布にくるまれていくつもの湯たんぽを一緒に入れられひたすら抱きしめられる。暖房の効いた車はすでにあったかくて十分なくらいなのに、過保護だなぁ。
「御幸から連絡来たとき、心臓泊まるかと思った。こんな冷える日に、何も持たず、薄手のまま出てくなんて自殺行為だろ」
「ご、めん。ほんとに、考えるよりも先に飛び出してて」
「何があったかは帰ってから聞く。御幸には俺から連絡入れとくからお前はゆっくり寝てろ。ついたら起こす」
ゆっくりと横に寝かされて頭をやさしくなでられる。それだけで散々歩き回った体には眠気を誘い、ゆっくりと深い眠りに落ちる。目が離せないな、お前は。最後に倉持がそんなことを言っていた気がする
目を開けるとすでに見知った天井が見える。体をゆっくりおこし周りを見ると誰もいない。おかしいな。倉持の家なのに家主が不在だなんて。どうしようか。起き上がってみたものの何もする気になれずもう一度倒れる。御幸、今何してるかな。心配かけちゃってるよね。拒絶してしまったから落ち込んでるかな。
おう。今ぐっすり眠ってる。ああ、心配しなくてもそこはしっかり見てる。わかった。わかったっつってんだろめんどくせぇな!そんなんだからってそこで変な声出すなボケ!荒々しい言葉が聞こえて少しすると寝室のドアが開く。ばっちりと目があい、悪いけどあいつ起きたから切るな。といってぶちっと電話が切られた。あまりにもあっけない切り方。タブ相手は御幸だったんじゃないだろうか。
おかえりなさい。と声をかけると目の前まで来ておでこを触られ、熱がないかを確認される。大丈夫だとわかれば倉持はコートを脱いでハンガーにかけ、私の前に椅子をもってきて目の前に座った。
「なんで御幸のプロポーズ断ったりしたんだよお前」
「あまりにも直球すぎやしませんか倉持さん。」
「回りくどく聞いたって意味ねぇだろ。」
それもそうか。と納得してそういう予定なかったから?ととぼけると怖い顔をされる。やだなぁ。これだって嘘じゃない。事実なのに。だったらなんで御幸とそういうことが考えられない。理由がお前にはあんだろ?と聞かれさすがだというしかなかった。長いような短いような、それでもなかなかに深い間柄で、お互いのことがほんとによく分かりすぎていると思うよ。わたしたちって
「言えないんだよ倉持。誰にも言えない理由だから誰も頼れないんだよ」
「だったら言いたくなるまで聞いてやる。理由を言え」
そこから30分不毛なこの言い合いが繰り返され、とうとう耐え切れなくなった私が言えないって言ってるじゃんか!とどなってしまった。ああ、これで私の負けだ。やられた。大きくため息をつくと倉持はにやりと笑い、約束だからな。という。御幸の友達やってるだけあるわ。実は私と倉持の中で約束事があって。最初にケンカしたときに言い合うとお互い引かないのを理解して、先に声を荒げたほうが相手の言うことを一つ聞くという約束があるのだ。つまり声を上げた私が今回一つ倉持の要求から応えなければならない。つまりはりゆうをはなせということだ。ああ、ほんとにバカ。
「だったら約束して。絶対にこの話聞いても怒ったりしないって」
そしたら話す。妥協してそういうとわかった。といって倉持は向かい合うように座る。あの話をするのは何度目だろうか。だけどこの話を口にするのは御幸を含め、初めてかもしれないな、なんて思いながら言葉を考えた


このお話はわたししかしらないの


prev next

 

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -