公園で出会った少年の名前は雷市くんというらしい。頻繁に会うわけじゃなく、彼が何もない日を教えてくれてその日に私がお弁当を持っていくというのが日課になった。それはたまに御幸の休日とかぶることがあったけど、先約優先。お昼は雷市くんのところに行ってお弁当を一緒に食べる。特別な会話があるわけじゃないけどちょっとした息抜きのような時間だった。だから、やましいつもりなんて一切なかったのだ。
「最近、お前昼よくでかけてね?」
「うん。かわいい子とお話してるの。お弁当持ってって」
「ふ〜ん。明日もいくの?」
「約束してるからね。じゃ、今日は先に寝るね。おやすみなさい」
そのまま宣言通りに先に寝て、起きてから朝ごはんとお弁当を持って、お昼から用事があるという御幸に戸締りをお願いして家を出た。いつもの場所で雷市君を待っているとすぐにお姉さん!と声が聞こえてそちらを向けば彼と、もう一人知っている人物がいた。さすがにその相手には驚いて目を見開いた。
「あれ?”ゆき”ちゃん?」
「よく来るお客さん?!」
そう。名前は知らないけどキャバクラのアルバイトをしていた時によくやってきていた不思議な男の人だった。なんでこの人がここに。まさか雷市くんの兄弟とか?!似てないけど。焦っているともな!と後ろからどすの利いた声で呼ばれる。振り返ると怖い顔をした御幸と倉持、それに栄純君がたっていた。なにこれ?首をかしげると倉持はこっちにこい。といって私を呼び寄せる。素直に従おうとするとへぇ、もなっていうんだ。と言われてあ。と固まってしまう。それをみて不機嫌になった倉持は傍まで来ると私のことを引っ張って栄純君に投げ渡し、御幸と二人でお客さんににらみを利かせていた。
「どこでこいつと知り合ったてめぇ。何が目的だ」
「目的も何も、雷市をたぶらかしてる女ってのに会いに来ただけだよ。そっちこそ、それとどういう関係?」
「こいつは俺の女だよ。ちょっかいかけないでくれる?」
「こいつとどこで出会ったんだよてめぇ」
「え?仕事先?」
仕事?といってこちらに鋭い視線が来る。あ、あのバイトのときのお客さんで・・・。というとだからあれほど!って怒られる。いやでも知り合いだって思わなかったし!だいたいさ、おかしくない?そんな都合よく知り合いに会うとは思わないじゃん?知り合いに会うのはいいんだよ。でもこいつっていうのがよくねぇんだ。見てみろ、この胡散臭い顔を。お前の彼氏と同じ顔してるだろ?確かに・・。と頷くと御幸にもな?と笑顔で呼ばれた。冗談だってば!わたしべつに好き好んで会おうとしたわけじゃない、それにちゃんとこの人には警戒してたし、ちゃんと名前だって伏せてた。ゆきというのはちゃんと御幸の彼女だっていう意味も込めていたとかいう裏事情は伏せておいたほうがいいのだろうか、明るみにしたほうがいいのだろうか。この判断、難しい・・・。
「あ、ゆきちゃんって、こいつのゆきってことか。確かにゆきちゃんだな」
「なんで今その話題出すの?!空気よんでよ!!」
「なに?ゆきって名前になんか意味でもあったの?」
「名前の由来が彼氏の名字だって聞いてたんだよね。なるほど、激アツだわ」
その半笑いの顔がむかつく!あいつ嫌い!そう栄純君に泣きつく。雷市くんはおどおどとして、さ、真田先輩、いじわる、だめ。と必死に止めてくれていた。もなさんいじめんな!弱い者いじめかっこ悪いぞ!と栄純くんも加勢してくれる。何この子たちほんとかわいい。どうしてかわいい子ってこんなにかわいいの?!キュンキュンしすぎて辛い!!
このバカ!大馬鹿!と怒られても今ならまったく痛くない。この可愛さにその程度の攻撃が勝てるものか!なんて内心ふざけているとこれ亮さんにばれても怒られるからな。と言われすぐに謝った。
とにかく、金輪際こいつにはかかわるなよと言われても私だって関わりたくない。私が今後とも仲良くなりたいのは雷市くんであって、その人じゃない。いや、雷市に女を個人的に会わせるわけにはいかねーよ。こいつバカだからいつだまされるかわかんねぇんだし。は?こいつはそんなことしねぇよ。そんなのわかんねーだろ。女の本性なんて似たり寄ったりだし?もし仮にこいつがそんなんだったら俺や御幸は今頃破たんしてるっつの。なんて言い合いが始まり、私たち三人は少し離れた場所でそれを見守っていた。たぶん、この不毛な戦い終わらないわ。
「栄純くんお昼食べた?」
「ちょこっとだけ!まだぜんぜん食べれます!」
「じゃぁ、3人でお昼にしようか。ちょっとバック音うるさいけど」
下にレジャーシートを引いてお弁当を三人で囲っていただきますといって手を合わせた。ああ、かわいい子に囲まれて食べるお弁当は格別である。

ちょっとした隠し味はいかが?


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