『あのさ、いい加減学習しなよ、お前』
「す、すいません」
『今回は二人にこっぴどく叱られたらしいし、俺からは何も言わないけど。あんまり心配かけるようなことばっかしてるなよ』
「ご、ご心配かけてほんとに申し訳ないです」
『わかればいいよ。ああ、御幸の交友関係で危ない奴リストアップしとくからちゃんと目を通しとけよ。明後日には届くから。約束破ったら・・・わかるよね?』
「わ、わかってます!わかってますからっ」
必死にいうとそう。じゃぁいいや。といって通話が切れる。ふぅ、と息を吐いて歩き出した。買い出し終わったし、早く帰らないと。そう思って近道の公園を通ると大きなぐぅ。っと唸るような音が聞こえた。横を向くと男の子がおなかを抱えて座っていた。おなか、すいた。そうつぶやかれて買い物袋の中にあるものを確認する。アレルギーとか関係なさそうなフルーツの中からみかんを取り出し、目の前に差し出す。大丈夫?と声をかけて。男の子はすぐにくいついてみかんを食べる。そして満面の笑みでうまい。と叫ぶ。その笑顔に一瞬にしてやられた。
ついつい買ってきた食材を使ってサンドウィッチをつくり、彼のもとにもう一度持ってくるとその子は嬉しそうにそれを食べる。うめぇうめぇと連呼され、悪い気はしない。いい子いい子してるうちにだんだんと時間がたっていたことなんてなかなか気づかなかった。すっかり日が傾いたころ慌てて夕飯の準備を思い出し、ごめんね。といって別れる。一瞬寂しそうな顔をされたのでまた明日お弁当持ってくるから!というと笑顔になりぶんぶんと手を別れ際には振ってくれた。
「今日ね、すっごくかわいい子にあったの!」
「お前のかわいいはどういうのかわかんねーよ」
「もう、ずっきゅんって感じの子」
帰ってから夕飯の時に御幸に今日であった子の話をする。かわいかったということだけだが。御幸はそれについてはあまり興味を示さず、ご飯を黙々と食べる。たぶん、今日の試合で何かあったんだろう。納得のいかない結果とか。いつもならそんな些細なことでもどんな奴だのなんだの聞く癖に。こんなときはまったく気にも留めない。むしろすぐ忘れてしまうだろう。どうせ今彼の頭の中を占めているのは私の料理でもなく、野球のいくつかのシーンだろう。この分じゃ、味付けを少し変えたのだってわからないんだろうな。とりあえず私も食べてしまおう。ふぅ、と息を吐いて食べることに集中する。途中でちらりと御幸をみるとなにか真剣な顔をしていた。ほんとに野球ばかなんだから。
「がんばれ・・・」
聞こえない大きさの声でそっとそうつぶやいた。恥ずかしくて知られたくないけど、一応けっこう応援してるんだぞ。そりゃさみしいけどさ、でもさ、それ以上に頑張ってほしいって思ってるんだから。だからさ、その大事な試合終わったら、ちょっとはこっち見てくれないかな。わたしがもういい!って言いたくなるくらい、かまい倒してくれないかな。
「大好きだよばーか」
この声も聞こえなくていいから、ずっとそばにいさせてよ。それだけで十分幸せだと思えるから。


この距離だけで幸せなのです


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