お店を出たあと、駐車場に止めてあった御幸の車に押し込められた。終始無言。重たい空気を持ったまま車は動き出す。やばい。御幸怒ってる。だって明らかに顔が怖いもん。怒っている理由はなんとなく見当がつく。今回のこと報告しなかったからだろう。はじめに気づいた日を警察に話していたとき御幸が一瞬ピクっと動いたのを見た。なんかあの時怖いなっと思ったんだけどね。さっきまで優しかったから大丈夫かと思ってた。
家まで送ってくれるというわけではなく。そのまま御幸の家に直行。途中で母親に連絡を送ってもいいかと恐る恐る聞くと無言で頷かれたので静かに今日は帰りません。と連絡をしておいた。ごめんなさいお母さん。生きて後日帰れるかも不明です
マンションに着くと御幸は素早く降りて私の助手席を開ける。慌てて降りようとするといきなり抱き上げられて体が硬直した。え・・・何この状況!?何故女の子の憧れお姫様だっこされてるの私!?カバンまで取られ、硬直していると御幸は何も言わず歩き出す。途中で歩けます。と弱々しく意見してみたものの無視された。どうしよう。本当にどうしよう
無言で御幸は部屋の鍵を開けるとそのまま私をシャワー室に連れて行く。そしていきなりお湯を頭の上からかけられた。もちろん服は着てるよ。夏場だからコートとかは来てないけど。でも服は着てるよ!どういう状況なんだろうかこれは・・・・。御幸は黙ったまま私が持ち込んだ体を洗うためのスポンジにボディーソープをつけて私の腕や肩を丁寧に洗い始める。まるでお嬢様か私。いやいや、お嬢様はこんな恐ろしい付き人に洗われたりしないよ。って、そうでもなくって・・・。ホントに何この状況。
とりあえず御幸の気が済むようにさせたほうが無難だろう。身の危険を感じたら暴れよう。
パーカーを脱がされ、肩を丁寧に丁寧になんどもなんども洗われる。まるでそこについている細菌を落とすかのように。そんなに私汚くないと思うんだけどな。お風呂毎日入ってるんだけどな。なんて不満は口にしない。命かかってるからね。割と本気で
やっとシャワーで泡を流されると御幸は私の肩に顔を近づける。おとなしくしていると何度かチクッとした痛みがした。これは多分キスマークをつけているのだろう。そこまで鈍感じゃないからわかる。明らかに御幸はあの男が触った場所を消毒しようとしている。直に触れたわけじゃないのに、自分で消毒しようとしているのだ。まるで幼い子供が自分のお気に入りのおしゃぶりタオルを誰かが勝手に使って、怒って、タオルを綺麗になんどもなんども洗って、自分の後を付けるかのよう。そんなイメージ。実際はそんな可愛らしくないけど。もっともっと危険すぎるけど。
その後ギュッと抱きしめられて無事で良かった。と切なそうな声で言われるとまたぶわりと涙が戻ってくる。御幸にしがみついて子供のようにわんわんと泣いた。本当に怖かったのだと何度も言った。だけどどうしていいかわからなくて、恐怖が募る一方で、わけがわからなかったのだと何度も訴えた。優しく抱きしめてくれる手が、何より安心感を与えてくれる。聴こえてくる声が、もう大丈夫だと教えてくれる。包み込んでいるこの人の体温が、もう怖くないと言っている気がした。その晩は私は自分の意識がなくなるまで御幸の腕の中で泣き続けた。意識が薄れたとき、またなにか言われた気がする
もう一度目を覚ますと私は布団の中全裸の状態だった。一瞬あせったけどそりゃあれだけビチョビチョにされると脱がざるえないよね。私の責任じゃないけど
そんな私を離さないと言わんばかりに抱きしめてくれている御幸。ちょっとこの図だと変態くさいな。なんて考えると自然にくすりと笑った。あ、久々に笑ったかも。
でも今回本当に御幸に助けられた。そういえばなんで御幸はあそこにいたんだろうか。会う約束などしてないし、仕事場を教えた覚えもない。だったら偶然だろうか。でもそれにしてはタイミングが良すぎてなんだか変な感じだ。よしよし、と眠る御幸の頭を撫でてみる。ちょっと気持ちよさそうに擦り寄ってくるのが可愛らしい。なんだかほっこりした。昨日までは怖い気持ちでいっぱいいっぱいだったのに今じゃ不安ひとつない。そういえばあのよくわからない男はどうなったのだろうか。なんて考えてみても怖くない。御幸の横はやっぱり安心する。でもこれは御幸に彼女が出来るまで、それまでの幻のような時間。ちょっとさみしいな。なんて思うのはきっとここの居心地がよすぎるせいだ。んん。と唸る御幸の頭をもう一度優しく撫でた。大丈夫大丈夫。そんな子供をあやすような気持ちで。あのね、御幸。本当はね、もっと早くに御幸に相談したかったんだよ。だけどね、あなたいつも本当に疲れているじゃない。野球選手ってとても忙しいし、プレッシャーかかるし、人付き合いだって多いし。私はね、負担になりたいわけじゃないの。あなたと対等な関係でいたいの。あなたを見てたら私まだまだ頑張れるから。今だってあんなに怖かったのにもう立ち直れた。なんどもなんども助けてもらった。だからね、御幸が孤独を感じるとき、体を貸すんだよ。少しでも、御幸の気持ちが晴れたらいいなっていつも思ってる。最初はすごく怖かったんだけどね。御幸のこと。だっていきなり連絡先教えてって言うし、すごいしつこくメールしてくるし。でも、野球してる御幸はいつもかっこよかった。甲子園での試合を見たとき、私本当に感動したの。それから御幸っていう人に興味が出た。でもまさかこんなすごい人だとは思ってなかったけどね。私さ、何も持たない一般庶民だけど。少しでもあなたの支えになりたいって思ってるんだよ。あなたが頑張ってくれたら、私も頑張れるから。何があっても私はあなたの味方でいたい。あなたがそうでいてくれるように。まだ眠る御幸をギュッと抱きしめる。どうか早く、御幸の孤独を埋めてくれる人が現れますように。そう、心から願った


夢の中で君は幸せですか?

prev next

 

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -