いつものようにお酒を注いでいるとまたお偉いさんたちが来る時間帯となり、私はカウンターのほうに一人で座る。ミスを許されない席に慣れてない子は行かせないのがこのお店の方針らしい。それはとても助かる。大事なお客さんを任されても、私にはまだ無理だ。
「お姉さんすいやせん。お手洗いはどっちっすか?」
「へ?」
突然聞こえてきた声に驚いて振り返るとそこには栄純くんがいた。驚いて目をぱちくりさせていると彼はコテンと首をかしげる。か、かわいい!!じゃなくて!!なんでここに?!うそ?!栄純君とかも来るの?!えっと、ここを右です。といってトイレに案内すると彼はいつもの無邪気な顔でお礼を言ってトイレに走っていく。待って。待って。びっくりしすぎて心臓が痛い。とにかく隠れよう。一応ばれてなさそうだったし。そう思ってカウンターから離れて裏に入る。ここなら見つからないだろう。新人だから野球選手さまの席に呼ばれることもないだろう。ふぅ。と息をついて自分の心臓に元の心拍に戻るように言い聞かせた。
「ゆきちゃん!急だけどお客さんについてくれる。」
「は、はい!」
私が呼ばれるということは大物とかじゃないんだろう。この時間帯に場違いとは言えないがそんな感じできてしまったお客さんの相手だろう。個室のほうがばれにくいかもしれないし、良かったかも。ほっと胸をなでおろし、言われたところに行って挨拶をして入る。すると顔を上げた瞬間ひっ。と短い悲鳴を上げた。なぜなら怖い顔をした倉持と目が合ったからだ。横では申し訳なさそうな顔をしている栄純くんがおろおろとしている。
「言い訳なら30文字以内で聞いてやる」
「友人に手伝ってほしいって言われて短期で入ってました。ごめんなさいっ」
「へー。頼まれたらこんなところで働くのか?ちゃんと付き合ってる彼氏もいて、いくらおさわり禁止なんて言葉があっても権力があるやつが何かすれば何も言えないんだぞ」
「あ、危ない人はいないって・・・それにヘルプだけだからって」
「何がヘルプだけだよ。現にいま俺らはお前を指名した。結局店側もこっち側の言うことを優先すんだぞ」
まだ何か言いたいことがあるか。と言われて首を横のふる。御幸が来る前にかえんぞ。と言われへ?というと仕事であいつも来てる。今別ンとこで話してるけど。そういって倉持が一つの個室のほうを見る。やっぱり、御幸も来るんだよね・・・。自分のことを棚に上げてショックを受けて私はしょんぼりとしながらお店の人に事情を簡単に話、帰らせてもらおうと席を立つ。その瞬間腕をつかまれて後ろを振り向かされる
「なんで、お前がここにいて、そんな恰好してるわけ?」
「み、御幸っ」
驚く暇もないくらい怖い顔をされ、体が硬直する。友達に頼まれたんだと。と倉持がいって御幸はいつもならしない、冷たい目で私を見てふーん。という。その視線が胸にいってることに気づき、慌てて隠すと腕を引っ張られて違う個室に連れ込まれた。そのままソファーに突き飛ばされ、倒れこむ。ボーイになにかお酒を頼むと御幸はすぐ隣に座って私の太ももをいやらしくなでた。
「なぁ、名前なんて言うの?」
耳元でささやかれる声にピクリと反応してしまう自分が憎らしい。するりと御幸の手が太ももを何度もなで、反対の手で肩を抱かれながらその手も肌の上を滑る。いやいやと首を横の振ってもとめてもらえない。なぁ、なんていうの?と聞かれゆきっ。と投げやりに答えるとへぇ。とにやにやと笑われる。
ボーイのひとに持ってこられたお酒をグラスに注ぐように言われ恐る恐る注ぐと今度は飲むように言われてお酒飲めなくて。といつもの嘘をつくと飲めるって知ってるんだけど。と言われ何も言えなくなる。御幸…。すがるような声でそう呼んでも御幸は変わらず冷たい目で私を見ている。恐る恐るグラスに手を伸ばし、一口飲むとそれだけで酔いが回りそうだった。これ、きついやつだ。辛くはないけど、甘いやつだけど。御幸は同じグラスから一口口に含むと私の顎を無理やる固定し、口づけてお酒を流し込んでくる。くちゅり、といやらしい音を立てながら流れ込んできた液体を必死で飲み下す。ふっ。すでにくたりとなった身体に御幸はまだお酒を流し込む。苦しくて苦しくて、涙がこぼれた。
「この仕事はやめろ。二度としないって誓え。一週間外出禁止。誰との連絡を取るのも禁止。これ、守れる?」
私がその言葉に必死で何とか頷けばやっとお酒を流すのをやめてくれた。ぽろぽろと流れる涙をやさしく拭われ、やっといつものやさしい顔に戻ったのを見てほっと胸をなでおろした。そしてすぐにやってきた睡魔に逆らうことなく目を閉じた


甘美なるワインに沈め


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