突然会社から謝罪の電話がかかってきた。今回の出来事は向こうの自作自演とのことがわかったらしい。戻ってこないか。という店長のお誘いに乗ることもできず、電話を切った。今更戻れるわけがない。だって、あんな目で見られたのだ。仲間だと思っていた人間に。邪魔だと言わんばかりの顔をされたのだ。そんなところで自分がまた仕事をやりたいとは思えない。仲のいい同僚と後輩くんにはすごく申し訳ないけど・・・。
さて、一応断ったとしても仕事がないというのは困る。ニートなんて嫌だ。なので仕事を探そうと思う。ハローワークにいっていろいろ調べてもらったけどなかなか自分のピンとくるものがない。あの仕事気に入っていたからこそ余慶に。そんなとき友人からバイトしない?と誘いをもらう。なんの?と聞くと接客業といわれまぁいいか。と了承し、短期でバイトすることになった。なにげバイト代が良かったのだ。断る理由が今の私にはなかった。友達経由だし、危なくはないだろうと信じて。
「まぁ、危ないことにはならないだろうし。ここ品層高くて変な人来ないし、おさわりも禁止だから大丈夫よ」
「とか言ってもこんなところ来たことも何もないんだけど?!」
「ヘルプにつくだけだから大丈夫。ほら、お金のために頑張れ社会人」
うそーん。と半泣きになりながらも仕事を教えられ、精一杯笑顔で接客する。もちろん結構失敗することが多いけど今日が初めてだということでお客さんもやさしく見守ってくれた。そう。わたしは今一生縁のないと思っていたキャバクラで働いているのだ。
どおりで時給もいいわけだ。昔よくアルバイト募集でこんなの見たけどそういうところだけはとびぬけてよかったもんな。怖いから行ったことなかったけど。まさか自分が店員として働くなんて夢にも思わなかった。過去の私がこれを知ったら自分すごいとか思っただろうな。ってくらいには衝撃的だ。呼ばれた席に行って、お酒を注いで、お話をする。正直小難しい話は一切わからない。わかりやすい話とかなら相槌を打てたりもするけど会社のどうこうとかは聞き流す程度だ。
呼ばれるたびに移動してお店もだんだんと混んでくるとたまに私一人になるときがある。そういう時はとても心許なくておろおろしてしまう。アットホームなのかお客さんみんなやさしくいろいろ教えてくれるけどやぱりなにか失敗していないかとても心配になる。重要な大きなお客さんが複数やってきて上位の女の人たちがそっちに流れてゆく。私はぽつんと端っこに立ってさていつまで続くのだろうか。なんて考える。カウンターに座って時間を持て余しているとお疲れ様。といってボーイの人がお水をくれた。そういえばのど乾いたかも。お礼を言って受け取り、ゆっくり飲む。呼ばれるまで自由にしてていいから。と言われわかりました。と返すとボーイの人も立ち去ってしまう。つまりは素人の私が少し邪魔な時間帯ということか。そう納得しながら着慣れないドレスの布をやさしくなでた。一番露出度の低いものにしてくれたって話だけど、それでもやっぱり多いな、露出。出てる肌をするりと撫でているとヒュ〜と口笛の音がした
「そんな顔して意外とエロいんだ」
「誰?」
素直な疑問をぶつけるとその人は驚いた顔をして私の隣に腰がおろす。ここ初めて?と聞かれ頷くとなるほどな。となぜか納得された。俺野球選手なんだ。結構有名なんだぜ。と言われとりあえず頷いておく。有名なのか。そうなのか。わからないわ・・・・。記憶にない。もともと人を覚えるの苦手だし。
「ねー。俺のこと楽しませてくれないの?ちょっと誘惑とかしてみせてよ」
「私ヘルプで入るだけなんでお酒注ぐくらいしかできません」
俺のこと顧客にできたら結構稼げるよ?普通のバイト代で間に合ってます。へー。バイト代っていくら?そういうのお客さんに言っちゃいけないんですよ。でもまぁ、払ってくれてる十分の一くらいじゃないですか?多くて。チップとか知ってる?お給料とは別にもらうやつ。ボーナスみたいなの?あーそんなの。うーん、でもそんなのきいてない。どうせ短気だからボーナスなんてないともいますし知らなくていいです。ねぇ、そっけなくね?俺、お客さんだよ?私今休憩中なんです。大物さんたちが来てるから新人のド素人は引っ込めってとこなんですよ。ああ。だからこんなところにいたのか。じゃ、暇なんだ?休憩時間です。俺とおしゃべりしようよ。だから休憩中。強情だな。わがままですね。こんな言い合いのような楽しくとも何ともない会話をお客さんは帰る間際まで続けてきた。変な人だな。と思いながら去っていく後姿を見届けた。


後姿からは顔はわからない


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