あれから早半月。一向にあの男は消えない。あまり気にしていても仕方がないということでお店の調理には参加するようになると突然男が店の中に入ってきた。一瞬でストーカー疑惑を知っている店員たちは警戒し、店長がわざわざ対応に行ってくれた。その様子をみんなこそこそと見守り私の下には後輩がやってきて店長が奥に行けって言ってました。と伝言を伝えてくれたのでお言葉に甘えて奥の部屋に避難させてもらった。どうなってしまうのだろうか。ハラハラしながら部屋の中で待っていると数分後、後輩と同期が一緒にやってきた。あの男の要件は自分もこの教室に入りたいということだったらしい。お客を無下にすることもできず店長がコースについて話し合おうとすると担当を私に希望してきたらしい。確かにここでは担当を希望することはできる。だけど流石にお客といっても危険があるので店長は私は今いっぱいいっぱいの予定が詰まってるから難しいと言ったらしい。すると男は少し怒った顔をしたがじゃぁ彼女が空いている時にもう一度きます。と言って帰っていったらしい。もうこれは警察に行くべきだよ。同期の言葉に後輩も口を揃えていった。行ったほうがいいっすよ。ほんとに危ない感じでしたから。確かに本当にやばそうだ。今週末仕事終わってから行くよ。と言うと今日行きなよ。と言われるがこの間からあの人から逃げ続けて仕事が溜まりに溜まっている。警察に行く時間があるならこっちに回さなければ本当に終わらない。社会人としてこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないのだ。店長にはそれでもなくともお世話になってるんだから。私がそう言うと友達は呆れた顔をしてわかったと言ってくれる。後輩はまだ不満そうだったけど同期がだけど条件付き!私たちと帰りは絶対に一緒に!という約束をするとなんとか納得してくれた。優しい人に囲まれてるなぁ、と自分の幸せな環境を改めて実感し、ありがとうとお礼を言った。
やってきた週末。今日でガンバルの最後だ!なんて気合を入れて仕事をしていると急に同期の子と後輩くんがお休みだという報告が入ってくる。なんでもふたり揃って熱を出したとか。私のこともあって余計に疲れたんだろう。ごめん。と何度も心の中で謝った。店長が大丈夫かと聞いてきてくれたがこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないので大丈夫と返しいつものように仕事に励む。今日も今日とて外からじっと見てくる視線に嫌気を感じながら必死で笑顔で取り繕ってお客の相手をした。大丈夫大丈夫。そう何度も自分にい聞かせて
仕事が終わると私は人の多いうちに帰るように言われ、言葉に甘えてそのまますぐに着替えてお疲れ様でした。と頭を下げて店を出る。するとそれと同時に男も立ち上がって動き出す。やめて。ついてこないで。こんなところで騒ぐわけにもいかないのでとにかく早歩きで歩く。お店の外にタクシー用意してるって店長言ってたし大丈夫。こんなところで接触してきたりしないよ。泣くな。泣くな
怖いとかそういうのを考えたらダメなんだ。とにかく逃げ切ることだけを考えて。必死で震える足を動かしているといきなり肩を誰かに掴まれる
声を聞かなくてもわかる。あの男だ。すごく嫌な汗が流れる。いや、嫌だ!
「あ、あはは。やっと捕まえたもなちゃん」
なんでこの人私の名前知ってるの?!誰なのこの人。怖い。怖いよ。とにかく逃げなくちゃ。放してください!と暴れるとてれやだなぁ。照れないでよ。なんて言って男はニヤニヤと笑う。意味わからない。どう見たらそう見えるのよ。馬鹿じゃないの
心の中では強気で言い返しているけど実際は怖くて口は震えて立っているのもやっとだ。どうしようどうしよう。頭が真っ白になっていると今度は反対の方にぐいっと引っ張られる。驚いて顔を上げようとするとギュッと抱きしめられて顔が見れない
「何してんだお前」いつもより低い声。だけどもう聴き慣れてしまった人の声。なんで、どうして。いろいろ思ったけど何より助かったという安心感から涙がボロボロと溢れる。泣きながら必死に御幸と名前を呼べばより強く抱きしめられた。怖かった。本当に怖かった。助けてって何度も何度も思ってたの
「お、お前こそなんだ!僕はもなちゃんの婚約者だぞ?!」
な、なにそれ!?思わずひっと悲鳴を上げると御幸が優しく私の頭を撫でて大丈夫。と言ってくれた。少しだけそのおかげで落ち着いてきて震えが治まってくる。ああ、すごいな、御幸は。こんなかっこよく現れて、こんなかっこよく守ってくれて。私の欲しい言葉をすぐ理解して、くれる。本当に優しい人だ
「コイツは俺のだ。妄想で勝手におまえのもんにしてんじゃねぇよ」
「お、お前こそ馴れ馴れしく彼女に触るな!待ってろもな!今助けてやるからな!」
流石にこの発言には御幸も呆れたらしく、「救えないな」とつぶやいた。騒ぎを聞きつけた警備員が駆けつけてくると男は焦り始め慌てて種を蒔き返し、逃げていった。さっき助けるどうこういってなかったか。と御幸がまた呆れたようにため息をつく
警備員のおじさんは私たちに事の事情を聞いてきて、店長も騒ぎを聞きつけ駆けつけてきてくれる。すごく心配をかけてしまったが無事だと確認するとよかった。と言って抱きしめてくれた。それがまた安心して涙がこぼれる。
彼は?と店長が御幸の方を見たのでとても優しい友人です。今日助けてくれたんです。と言うと店長は御幸にもお礼を言っていた。本当にこの人も優しい人だから。たかが一人の社員のためにここまで心配してくれる人なんて今の社会そうそういないよ。
警察にも連絡が回り、ここ数日の出来事を聞かれる。店長も一緒に話してくれたので話はスムーズに進んだ。最後の場面に立ち会った御幸は御幸で別に話を聞かれ、これから厳重な警戒をすると警察の人はいってくれた。幸い監視カメラにもあの男は写っていたから特定するのは難しくないだろうとのこと。逮捕とかにはできないが、私の安全を必ず保証すると言われたので分かりましたと答えた。警備の巡回も強化してくれるというし、家の近所もしっかり見回りをしてくれるというので多分もう大丈夫だろう。安心して眠くなった私を御幸は恥ずかしげもなく抱き上げ歩き出す。ここお店!と叫ぶともう人いないから大丈夫だと言われた。それよりも帰ってからしっかり話そうか。といった御幸が一番怖かった。


鬼が去って鬼が来る

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