合コンでその女と初めて顔を合わせた。その態度とかを見てああ、やっぱこういうの好きじゃねーわ。早くもなに会いたい。そう思いながら憂鬱なひとときをやり過ごす。人付き合い。そう何度も念じて作った笑みを浮かべて相手をすれば周りの女たちはすぐにころっと落ちてその女特有の柔らかいものをわざと俺に押し付ける。誘われているとわかっているがそれに応えるつもりは毛頭ない。あいつ以上に俺を魅了できるなら考えてもいいけどな。できるわけねーだろ。
そのままそれ以降あうつもりなんてかけらもなかった。もなと映画の約束をしていた日、その女は俺のことを待ち伏せていた。出待ちというやつだ。忘れられないの。なんて在り来りな言葉を聞き流し、用事があるから。と断ろうとすると一枚の封筒を渡される。中身はプレゼントよ。そういって怪しく笑う女に嫌な予感がする。表情を変えずに中身を見ると思わず息を呑む。一枚は倉持が中学時代やんちゃしていた写真。もう一枚はチームの尊敬する先輩と親しげな女性。これは先輩の彼女だ。まだ秘密の関係らしい。彼女が自分にはとてもじゃないけど釣り合わない。だから振られた時が悲しいから人に知られたくない。そう言われていてかくしてお付き合いをしていると悲しげに語っていたのを思い出す。もう一枚はもなと、俺が一緒に歩いているものだ。もなの顔までははっきり見えてないが間違うことはない。これはもなだ。
「ねぇ、今夜は一緒にいて」
擦り寄ってくる女に何もできずにその封筒をとにかくカバンにしまった。すぐに監督とその先輩とだけ話し合い、しばらくの間だけその茶番に付き合うように言われた。くれぐれも自分たちの口止めを終わらせるまでは機嫌を損ねないようにと。写真がばらまかれれば、先輩は彼女と別れることになるかも知れない。上手くいくかもしれない。それはわからない。けど倉持の方は・・・・どう転がってもいい方にはいかないだろう。チームに倉持は必要不可欠な存在だ。俺個人としてもいい選手だと思う。だから・・・・
必死に笑ってみせるもなに罪悪感はあった。その必死に笑みを作る姿には胸が痛んだ。少しの間だけだ。だから。そう思っていたのになかなかことはうまく進まない。女の指示が出るたびにもなは悲しそうな顔をする。それを隠す笑顔はとてもじゃないが見れたものじゃない。苦しくなるほど痛々しい。ただいま。も言わずに家に入ったある日、いつもなら先に帰ってるもながいなかった。心配になってほんとなら連絡しようと思ったが今はそれも禁じられていた。ただひたすらそわそわしながら何度も窓から外を見る。そしてその姿を確認したとき一瞬安心し、その隣に自分じゃない男が居るのを見てひどく嫉妬した。変な話だ。自分で距離を作ったくせに、かってに嫉妬して。最低なことを言った。そんな俺のことをあいつはそれでも心配してくれていた
クリス先輩の前で本音を久しぶりにこぼしてから俺は少しまた元気を取り戻す。あいつが俺のことを信じてくれている。それをしれただけでまだ頑張れると思えた。世界中の誰もが疑っても、あいつだけが信じてくれるなら、それでいい。世界中の誰からも信じられて、あいつだけに疑われるよりもはるかに。これが終わったら死ぬほど謝ろう。何度も何度も許してもらえるまで。ひたすら謝って、しょうがないな。そう言いながらももなも笑ってくれるようになるまで。このときおれはまだもなの身に起きたすべてを知らなかった


知らないからこそ


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