自分でも何やっているんだと思った。あんな顔、させたかったかけじゃねぇ。優しくするな。冷たい態度を取れ。今日は帰るな。話すな。目を合わせるな。家に帰るのをやめろ。連絡は一切するな。その言葉に従ってきたのは紛れもない自分の意思。望んだわけじゃない。それでも自分の意志だ。あいつを傷つけて俺は、野球をとった。いつだったか言ってた。野球と自分を比べるとききっと俺は野球を取るだろうという言葉はどうやらホントらしい。それでもいい。あいつはそういっていたが今回ばかりはそうもいかない。裏切りもの。そう罵られても仕方のないことだ。こんなのうそだ。お前だけだ。そう今言えないのは紛れもない事実なのだから。ただどうか、あいつの周りだけでも静かであることを願う
さすがにあの女もなんの関係もない一般人を巻き込んだりはしないだろう。そう思い俺はあいつがどんな状況か知らないままもう半月以上がたっていた。元気にしてんのか。ちゃんと飯食ってるかな。あー、あいつの作った飯がくいてーな。
そんな事を思っていると尊敬する先輩からちょっと時間を作れないか。と連絡が来る。今回のことだろう。わかっているがこの誘いを拒否する権利は俺にはない。これであいつとの関係も切られるだろうか。過保護な保護者増えてるしな・・・。もう会わせてもらえねーかも。あー、泣いてしまいたい。
「もな・・・・・・好きだよ・・・」
もう随分と本人に伝えれていない言葉を俺はこうやって一人のときだけ何度もつぶやいた。溢れる想いを抑えるために。会いたい。顔が見たい。笑った顔が見たい。声が聞きたい。名前を呼んで欲しい。あの声で。俺の名前を。触れたい。どろどろになるまで重なり合いたい。溢れてくる想いを逃がすように何度も繰り返してその名を呼ぶ。不安でたまらなかった。あいつが俺に見切りをつけてしまうんじゃないかと。それだけのことをしてる自覚があるから。
一時的に借りている家にクリス先輩が来る。というので話は一度終わり。俺は生活感のない部屋で一人ため息をこぼす。とりあえず、練習行かねーと。最近バッティングの調子が目に見えて悪く監督たちにも心配をかけている。今回のことも、迷惑かけちまってる。理由は一応話してるけどな。つか話し合っての今だし。倉持にもいってねぇけど。いや、倉持にはいえねぇか。
インターホンが鳴り相手がクリス先輩と確認が取れてからドアを開ける。どうぞ。というと邪魔をする。といって家の中に入ってきた。すぐ飯作りますんで。ソファーにでも座っててください。というといや、俺が作る。電子レンジを借りてもいいか。と聞かれて驚いたがすぐにはい。と返事を返した。キッチンから電子レンジの出来上がるチン。という音が聞こえた。冷凍食品とか?と俺が首をかしげると皿を借りるぞ。といわれまたはい。とそれだけ返す。すぐにあの報道のことを聞かれると思っていたのでかなり予想外だ。
机の上に並べられたのは俺の好物ばかり。栄養も考えられているのが見ただけでわかる。まさか。と顔を上げるとクリス先輩は携帯を出してひとつのメールを見せてくれる。俺はその差し出しなを見た瞬間息をつまらせた。伝言がある。ずっと待っている。だから無理をいくらでもしてこい。自分が壊れない程度に。その言葉を聞いて嗚呼が漏れそうになるのをグッとこらえた。
「今から言うこと、誰にも・・・・あいつにも言わないでくれませんか・・・?」
「ああ、わかった。」
その言葉を聞いた瞬間すぐに出かかっていた言葉が次々に顔を出す。ごめん。ありがとう。まだ好きだよ。嫌われたとしても、俺は好きだ。傷つけてごめん。困らせてごめん。そばにいれなくてごめん。冷たくしてごめん。
「会いてぇ・・・・・。」
「そうか」
「声が、聞きたい・・・」
「言うと思ったからこの留守電は置いておいたぞ」
そういってクリスさんはスマホを少しいじると俺の方に差し出して耳に当ててみろ。という。その言葉に素直に従うと在り来りな留守番サービスの音がする。お預かりしている、から始まり黙って聞いているともしもし。と随分聞いていない声がした。

もしもしクリスさん。お忙しいところすいません。今日行くって言ってましたよね?あの、あの人忙しいと食とか自分のこと適当にしちゃうので今栄養とか考えて作ったご飯タッパーに詰めていってもっていってもらえませんか?あのいけそうだったらいいので!それじゃ、わたしいま会社から連絡きたんでちょっと家空けてます。あと、御幸のこと・・・お願いします。そ、そそそれじゃ、失礼します。

全ての留守電を聴き終えると俺は両目から涙をこぼした。悲しいんじゃなくて嬉しくて愛おしくて切ない。ああ、こんなにも思ってもらえるなんて。こんな幸せなことだったのか。クリス先輩。なんだ。伝言、お願いしてもいいですか?ああ。一言だけでいいんです


次会うときに愛してると言って


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