「先輩、新しい生徒さんの担当お願いします」
「へ?」
「ほんといつも迷惑かけちゃってすいません。ありがとうございます」
返事もしてないのに勝手に決められて後輩ちゃんは去っていく。ああ、ほんとに女の子って・・・。大きくため息をついて使われていないファイルをダンボールから取り出す。机の上に素早く置かれたその生徒の個人情報やアンケート内容。体験時の様子が書かれた仕事仲間のメモ等をファイルにハサミ、部屋を出る。これが私の運命の出会いになるとはまだ思ってもいなかった。


「もうほんとに可愛いんだよ!!」
「へー・・・」
「もうキュンキュンしちゃってね。完成した瞬間のあの顔、もう心鷲掴みにされちゃったよ」
「俺も鷲掴みにされちゃってるんだけどなお前に」
「真剣に話し聞かないなら倉持に話すからいいよ」
「お前ホントに最近俺の扱いひどくね?」
そういって御幸は拗ねた顔をする。そうかな?と適当に返すと御幸は何も言わず顔を横向ける。無意識だと思うけど御幸は本気でさみしい時、こうやって顔を横向ける。そして一瞬だけまゆが動く。くすりと笑うと御幸は私の方を驚いた顔をしてみる。なぜ笑い出したのかわからないのだろう。そりゃそうだ。私にもわからない。ただ、愛おしかった
「なんかね、今すっごい御幸が好きだなぁって思ったの」
「今のどこで思ったのか俺にはさっぱりなんですけど」
そう言いながらも御幸は少し嬉しそうだ。そんな些細なことを嬉しいと思ってくれるところとかが好きなんだ。そんな些細なことを当たり前じゃないってわかってくれるところが嬉しいんだ。きっと私たち一歩間違えればね、すぐに別れが訪れるくらい脆い関係だから。だから・・・。だからこそそんな些細なことがいとおしくてたまらないのだ
「じゃぁ、ホントに今日は御幸の心を鷲掴みにしちゃおうかな」
「へ?」
大きな手。優しい温もり。意地悪な笑顔。強がってるくせに、隠しきれず震えてるところ。野球が大好きで無邪気なところ。人一倍努力家なところ。前を一生懸命見ようとするところ。好きって言ってくれるところ。抱きしめてくれるところ。今言ったのが私の御幸の好きなところ。あ、あとね。野球してる姿かっこいいよ。寝てる時はすっごく可愛い。エプロンとかさりげなくにあっちゃってるよね。メガネとかサングラスが普通ににあっちゃうイケメンっていうのが腹立たしいな。あとね、倉持と話してるときの素顔とか横から見るのが好き。好き勝手やってるけど身内のことほんとに大事にしてるところとかもいいよね。素直な気持ちで褒めちぎっているとだんだんと耐えれなくなったのか御幸は私のことをぎゅうぎゅうと強く抱きしめる。うひひ。参ったか。参った。もうまいった。なんでお前そんな可愛いの。ほんと今死んじゃいそうなんだけど。そのときは栄純くんか暁くんにもらってもらうよ。絶対ダメ。
くすくすと笑い御幸の頬に自分からくちづけた。幸せだなーって思う。本当に。倉持も幸せになってくれないかな・・・。妹に先に行かれちゃ兄ちゃん顔たたねぇしな。うんうん。お兄ちゃんのプライド傷つけたくないからそれまでなしってことだね。え、ちょっとまって。それとこれは話別じゃない?もなちゃん。むふふ。別じゃないんです。そんな他愛もないやり取りが何気なく私は一番好きだった


特別じゃない日なんて存在しない


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