仕事は楽しい。けど嫌なことはその倍はある。それは仕方のないことだし、世の中自分の好きなことばかりなんて夢の世界だろう。なんたって欲望の塊が人間なのだから。
なんてちょっとかっこいいことを考えながら家のキッチンでお菓子を焼く。ちょっと前に考えた自分のレシピを試しているのだ。こういうのの試食相手は大体決まっている。幼馴染の子達、ご近所さん、そして作っている時に連絡が入った人、最後に御幸だ。口が肥えた御幸を最後にするのはしょうがないことだと思う。一発目で挫折するのはきついんだもん。まぁそんな感じで私は自分の考えを試すのが好きだ。いつか売ったりできればいいな、とか思うけどそう簡単なことじゃない。最近は衛生問題がとても重要視されていてお店を開くにしてもその準備にはかなりの苦労があるのだ。それに成功する自信はないし、たまに人にあげるくらいが私の力量にはちょうどいいのだろう。
でもお店に憧れる気持ちはいつまでもあった。だから前にふざけてお金持ちと結婚できればなぁ。なんて親にいったけど絶対にできないことだと分かっている。なんでお金を持ってる人間が私に引っかかるというのだ。私より美人はかなり多いぞ。
上手く焼きあがったバウンドケーキを見つめていると携帯がピコピコを光る。なんだろうと思って確認すると久しぶりに見た名前に息を飲んだ。そして気分良く返事を返し、お土産を何にしようか悩んだ。何あげても喜ぶだろうけどなにかとびきりのものを挙げたい。あんな可愛い子の笑顔見たら私もうどんだけでも頑張れるもん!
いくつかにバウンドケーキを切り分けてラッピングする。それを持って近所の人に配り、その次に家が近所の幼馴染二人に届けた。二人共留守だったので家族に渡すことになったけれど。まぁ、渡せないよりいいだろう。口うるさいもうひとりの幼馴染は高校時代に引っ越して家が少しばかり遠いので届けに行くのは諦めて写真だけ撮ってメールで送った
それから色つきリップを口に塗って服を着替える。鍵を閉めて家を出る。切符を買ってホームに入ると中に入ってるお店で面白そうな飲み物をいくつか買い込んだ。チョコレートの炭酸ジュースってすごいなぁ。私は飲みたくないなぁ。なんて思いながら
やってきた電車に乗り込んで携帯を見つめる。ああ、早く会いたいなぁ。どんなふうに成長してるのかな?身長は伸びてるかな。顔は少しは大人びたかな。まだあの無邪気さは残ってくれてるかな。わくわく。どきどき。そんな感じでずっと外を見つめた
乗り継いで降りた駅に彼らはいた
「ヒャッハ!久しぶりだなもな」
「もなさんおみやげなんですか?!」
目をキラキラさせる少年のようなのは沢村君。独特の笑い方をしたのが倉持くん。青道のレギュラーたちだ。元だけども。私は野球は好きじゃないけど青道だけは好きだ。もうファンになった。
お前図々しいぞ。と沢村君を叱る倉持くんにほんとに用意してるからいいよ。と言うと呆れた顔をされた。確かに沢村くんを甘やかしている自覚はあるけどだって、可愛いんだもの。仕方がないじゃない。倉持くんだって可愛かったらもっと可愛がるけどなぁ。なんていえば気持ち悪の一言で返された。失礼な。
それからちょっといろいろ話すと串カツ屋さんに入っていろいろ頼む。そしてお酒でまずは乾杯。お互いの仕事状況とか、日常の報告。こんなふたりもプロの選手なんだからね。私ってばすごい人ばかりと知り合ってるなぁ。なんてまた思った
「御幸はどうしてる?」と聞かれたので「変わらずだよ」と返すとなぜかじとめで私は倉持くんに見られた。なんだというのだ。そして呆れたようにため息を漏らすのやめて。なんか腹が立つより悲しくなるから。
「御幸ともなさんって付き合ってるんすか?」
あまりに直球な質問に一瞬固まったがすぐに私は笑い出した。倉持くんなんか呆れてるよ。
「付き合ってないよ。私そんな高望みしないって。プロの野球選手だよ?ありえないよ」
「でも御幸はもなさんのこと好きですよ?」
「友達としてね。恋愛感情じゃないよ」
けらけらと私が笑えば倉持くんは沢村君の頭を一発殴った。何するんすか!と騒ぎ出す。ああ、もうほんと沢村君だ。やっぱり変わってない。可愛いなぁ
じっと沢村君を見つめていると倉持くんにお前、沢村が好きなのか?と聞かれ大好きと返す。当たり前じゃないか、こんな可愛いこ他にはいないよ。あ、春市くんも可愛いけど彼は忙しいからなかなか会えないしね。沢村君でも十分癒されてるよ!なんていえばもう一度倉持くんに呆れた顔をされた。ひどいなぁ
「あ、試食またお願いしてもいい?」と言ってバウンドケーキを取り出すと二人共目を輝かせて受け取ってくれる。まだご飯中なので帰ってから感想をメールで欲しいとお願いすれば二つ返事で了承してもらえる。それから少しだけ今回のバウンドケーキの説明をして、また世間話に戻って、たまに恋ばな。この間彼女と別れたばかりという倉持くんに理由を聞くと女のアドレス全部消して欲しいとか言われて喧嘩になったらしい。沢村君は相変わらず無縁の世界だった。地元においてきた彼女と進展してくれるの楽しみに待ってるのに
そういうお前はどうなんだと言われこれっぽちもないと告げればつまらなさそうな顔をしていた。仕方がないじゃないか。料理教室で私が担当するのは女の人相手がほとんどだし、男の人なんていい人は担当の取り合いなんだから。押しの弱い私はすぐ負けるんだよ。
別れ際にカバンの中に入っているもうひとつのバウンドケーキを思い出し倉持くんに「これ御幸に今度渡してくれない?」と言って渡す。自分で渡さないのかと聞かれたが多忙な彼の休みを毎回私で潰すわけにもいかないので遠慮させてもらっただけだ。ただし渡すのは食べてみて美味しいと本当に思った時だけにしてとお願いする。だってお口が高いかたに変なものあげれないからね。そして最後にバラバラの電車に乗って別れた。次はいつ会えるかな。なんて考えながら帰る帰り道は案外楽しかった


寂しくないよ。次がある

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