短編 | ナノ




黒尾と別れてから、1週間がたった。よくあるケンカ別れというやつだ。理由もほんとにくだらない、些細なことだったと思う。今では何がほったんか思い出せない。ただそれをきっかけにヒートアップして小さな不満まで大きな不満だったように感じ、止まるという言葉をしらないかのような私の口とアイツと口は言い合いを続け、最後に別れてやるよ!なんて言われてあいつが私の部屋を出ていった。ひとり取り残された私は最初こそ悪口を零していたけど、あいつが飲み残したコップを見た途端あいつがいないっていうのがどういうことかふと気づいて涙をこぼした。
謝ったら許してくれるのだろうか。そう思って一度、三日ぐらいたったころにあいつの大学に行ってみた。なんとか見つけ出して、声をかけようとしたらあいつは賑やかな男女グループにかこまれていて、あいつの隣にはスラリと引き締まった体に女性特有のそれがしっかりついてて女の目から見てもわかるほどの美人がいる。それを見た時、もうムリだなってわかった。だって喧嘩の最中にあいつが言ってたから。私のこと、デブで根暗のブスって。多分比べたのはあの子だろう。だって私と真反対だ。スラってしてて、明るくて、綺麗で、あんな子と比べられたらそりゃ、無理だよ。無理だ。なんで、あんな子と比べるのかな・・・勝ち目ないに決まってんしゃん。
それから、一晩もう一度泣いて次の日には友達に報告をして、慰められてまた泣いて、あいつを忘れるために、違う男を知ろうという話になり、今度バーに行くことになった。ナンパする男にイイヤツなんてそういるわけないけど、とりあえずほかの男を知った方がいいっていう意見を聞き入れたのだ。
友達とわかれ自分のとっている授業の教室に入る。こんなに人いるのにわたしここで知り合いいないんだよなぁ。なんて思っていると見慣れた背中を見つけた。まさか。と思いたがら近づくと間違いない。
「おはよ。木兎」
「おー!みょうじもこの授業とってたのか!びっくり」
「あはは。相変わらず子供みたいな話し方。わたしもびっくりした。」
「なぬっ!?」
「とりあえずとなり座っていい?」
「おお、いいぞ」
許可ももらったしで隣に座り教材を広げる。それをみて俺忘れたから見せて。なんて言ってくる木兎におまえ!ってなったけどまぁ、こいつはこういつやつだし、仕方ない。と諦めて真ん中に教材をいおてやった。
「な。なんか今日顔違う」
「は?わたし?」
「おう!なんかいつもよりブサイク!化粧濃い!」
「ほんとに怒るよ木兎?言っていいこととダメなことあるんだからね?」
「俺いつもの方が好きだ!いつもの方がかわいい!」
「っなにいってんのよ!ばっかじゃないの!」
こいつ!こいつ!!無邪気に言いやがって!!嬉しいとか思っちゃったじゃんか!!グイグイのぞき込んでくる木兎にチョップして彼氏に振られて泣いたから泣きあと隠すためにこくしてんの!と言いたくもない説明をする。まったく、そんなんじゃ絶対彼女できてもふられちゃうんだから!
「え!?振られた!?」
「ねぇ、あんた私に恨みあるの?声デカイから。黙って」
「おま、別れちゃうのか??」
「別れたの!過去形!そんで違う男探しに今日行ってくるからもういいの!」
「えぇ!?」
「はい、この話おしまい!」
なおも食いついてこようとする木兎に本気で怒るよ。というとしょぼくれモードになっておとなしくなった。よかった。授業がおわり、バイバーイとてをふってわかれて、トイレで化粧を直して友達と合流する。そしてそのままバーに向かった。
「な、なんか結構賑やかなんだね。想像と違った」
「あはは。大人しいバーもあるけど、こういううるさいのもなかなかいいでしょ。」
立ち飲みと座るのと両方あるらしくて私たちはナンパされやすい立ち飲みに向かった。カウンターでお酒を頼み、適当な机にお酒をおいておしゃべりしてたらあっという間に男はきた。あれ。そこそこかっこいいのがきたぞ。友達も同じことを思ったのか、声のトーンが変わった。あからさますぎるぞ。こんな人たちは多分出会いというより一晩の楽しみを目的としてるんだろうな。なんて思いながら1人の男の子と仲良く話した。
2人で抜けない?なんて定番のセリフ、聞くことになるとは思ってなかった。初めての彼氏も、初めてをささげたのも黒尾だったから。これからもずっと黒尾以外となにかなるなんて思ってなかった。だからきっと忘れられないんだ。1回、1度だけでいいから違う人とすればなにか変わるかもしれない。例えばこの変わらない気持ちとか、ね。
知り合ったばっかりの男に肩をだかれて、そういうホテルにはいる。どこがいい?なんて聞かれてもすごく困るからやめて欲しい。この人もう少しリードとかできないのかな。黒尾だったら、なんて考えたらダメだ。
入ってすぐに抱きしめられてベッド押し倒される。男の人の顔が肩あたりにうまり興奮した鼻息が聞こえてきて鳥肌がたった。大丈夫。大丈夫。そう唱えても気持ち悪くて仕方ない。チクリとした痛みを感じたらもうダメだった。男の人の股間を思いっきり蹴りあげて痛がっているするき急いで荷物をもって部屋をでて階段で降りてゆく。走って走って家の近くまでいくとヒールを履いていた足は悲鳴を上げていた。なんとか自分の部屋のある階まであがって部屋に近づくと家の前にいるはずのない人がいる。ねぇ、なんでいまなの?今はやめて。絶対に、あなたを傷つけてしまうから。
「よぉ。」
「帰ってよ。今更何しにきたの」
「話がしたい。」
「いやよ。こんな見た目も中身もブスなやつほってさっさと綺麗な女の子のとこに行けば」
「・・・頼む」
そんなの今更聞くわけないじゃん。といって押し退けて家の鍵を開ける。ドアノブを握った手の上に突然黒尾が手を重ねてきてもう一度頼む。と切なげな声で言われたら無視することが出来なくなった。ここに入ったらアンタ傷つくだけなのに。馬鹿だなぁ。
私お風呂入りたいから適当にしてて。とせめて少し時間を開けようとする。お水を浴びれば、冷静になるかもしれない。着替えとタオルを持ってユニットバスにはいり、お風呂のカーテンをしめた。そしてお水を捻り、頭から一気に浴びた。冷たい。冷たい。けど、このぐらいがきっといいんだ。足元からゆっくり崩れて座り込み、小さく丸まった。
ひたすら水を浴びて、どのくらいたったのかわからない。それでもあの男の息遣いが、耳に残ってる。消えて欲しいのに、消えない。気持ち悪い。やだ。やだよ。こんなのやだ。自業自得だってわかってるけどそれでも、やだよ。
シャーっとカーテンが急に開き驚いて顔を上げると焦った顔をした黒尾がいた。シャワーを止められ、バスタオルが頭の上に降ってくる。驚くまもなく簡単にふかれて、体を持ち上げられた。いつの間に脱いだのか黒尾の上半身は裸で、抱っこされるとぴったりと肌は何にも阻まれることなく引っ付き、そのぬくもりを伝えてくれる。暖かくて、安心して涙がこぼれた。その日は少し切ない顔をした黒尾に、いつもより乱暴に抱かれ、あのバーで出くわした男につけられたあとにはそれを上書きするかのようにつけられた赤を通り越した色のあとがつき、すべてがなかったようにされた気分だった。
次の日、目が覚めると腰が痛くて動けそうにもなく、仕方なく動くことを諦めて布団に潜るとちょうど黒尾が目の前にやってきた。手には水の入ったコップを持っていて確かに喉がガラガラだと思いうけとってゆっくり飲んでいく。飲みきったら黒尾に返して布団に潜った。黒尾はぎしっと音を立ててベッドに腰掛ける。
「無理やり抱いたりして悪かった。」
「・・・別に、今回は同意の上だし」
「この間も、傷つけることばっか言ってごめん。」
「それもホントのことだからいいよ」
「ちげぇよ。確かにお前は痩せてもないし、可愛くねえことばっかいうし、ひねくれてるし、世間一般からすれば特別秀でた容姿じゃねえと思う」
「え?なに?まだ貶したりないの?」
「話し聞けって!確かにそうお前のこと貶したけど、俺は細い子より肉つきいい方がすきだし、可愛くないことばっかいうけど、そこも含めて好きだし、他の誰は知らねぇけど俺にとってはお前が一番可愛い」
「今更、もういいって。そんなん言われたって困るだけだよ」
悲しくなるだけだ。慰めなんかいらない。優しいから、黒尾は、傷つけたって気にしたんでしょ?でもいいんだ。もう、だって、別れたんだし。
「・・・お前の学校にさ、木兎って男いるだろ?」
「いるけど?なんで知ってるの??」
「そいつ高校の時のライバル校で今でも連絡取り合ってんだ。飲みの時に彼女って写真みせたらあいつが知ってるってなった」
「まぁ、なんだかんだ接点あるからね」
「それで、お前が喧嘩してわかれたから男探しに行くって言い出したって連絡来て」
「告げ口しないでよ、あのバカ」
「でも行きそうな店とかわかんねぇし。行き違いになっても意味ねぇから、家の前で待つことにした」
ん?だとして、なんで家の前にいたのだろうか。彼女だった頃なら浮気だと責められるのも納得する。そういえばなにか話があるとかだったっけ。昨日結構動揺してたからあんまり覚えてない。
「その話聞いた時、正直腸煮えくり返るくらいムカついた。んで初めて俺全然なまえのこと好きなままじゃんって気づいて」
「綺麗な女の子のはべらしてたの知ってますけど。どの口がそんなことゆってるのかな」
「あー、悪い。それわざと。来てたの見かけたやつから連絡来て、しって。」
「はぁ!?最低!!」
「うん。ごめん」
それでお前が傷ついた顔したの見てまだ俺のこと好きなんだって優越感に浸った。なのに男探しに行くとか聞いて、急いで来たらまぁ、もう事後なんだろうなって言うのは雰囲気でわかって。家あげてもらって待ってても全然出てこないから心配になって怒られるの覚悟で入ったら給湯器ついてないし、シャワー水だし、うずくまってるし、キスマークついてた所に爪たててたから、いやだったんだなってわかって、とにかく風引くからって温めようとしたら擦り寄ってくるから抑えきかなくなって、うん、まぁ、今です。
黒尾らしくないくらい弱気な話し方に違和感を感じた。いつもはもっと詐欺師のような感じなのに。変だ。気持ち悪い。
「やり直したい。」
「へ?」
「俺から別れるっていったくせに都合がいいけど、やり直したい。俺は、お前が違う誰かのものになるの許せそうにない」
わたしが返答に困ってると布団の上から抱きしめられた。耳元で布団越しに聴こえてくる私の名前を呼ぶ声はらしくない弱々しいものなのに。もう逆らえる気なんてしなくて悔しいからすぐには返事はしてやらない。でもとりあえず、バーの人とは最後まで致してないということを教えてもいいかもしれない。きっとすごく驚いてとても安心するのだろう。

私の思いを知りなさい。


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