短編 | ナノ




赤葦と別れたから地球が回ることをやめるわけもなく、はたまた世界が滅ぶわけでもない。そんな現実がひどく理不尽に感じているのはわたしがひねくれているからだ。赤葦京治、その名前を見ることも、その名前を呼ぶことももう無いだろう。
未練がましく残してしまいそうになったアドレスは友達に別れたと教えた時に容赦なく消されてしまい、次の恋に生きろと言われた。だけどわたしには次の恋なんてわからない。今自分がどこにいて、どこに進めばいいのかも。
毎朝毎晩、7割がた一方的におはようや、おやすみなどのメッセージを送っていた。帰ってくる返事は味気ないし、無視されることが多い。それでも1日1回はかえってくるから良かったのだ。
今、唯一離れてよかったことはストレスの原因になっていた木兎さんという名前を聞かなくて良くなったこと。もともとかかわり合いも、あったこともない人だから当たり前なのだ。でもそれだけでも体は少し楽になる。大ッ嫌いな、名前だったから。あったこともないのにとても失礼な人間でごめんなさい。でもいつも無断でわたしから赤葦奪うんだからそのくらい許してよ。
赤葦のこと思い出すなにかに触れないように色んなものを避けた。バイトを変えて、もらったもの全部ダンボールに適当に押し込んで。家までの道のりも、前歩いていた道と変えた。関係は浅くとも付き合いは長かったから、思い出があり過ぎた。なんだ。わたし。なんにもなかったわけじゃないじゃん。ってそのとき初めて気づけた。贅沢言わなかったら、今もわたしはあそこにいたのかも知れない。そう考えてやめた。だってそんなものに意味は無い。もう、意味は無いのだ。
バイトが終わって外に出ると結構冷えている。こんな夜は月や星がきれいだ。そんな夜空を見ただけで、ふと昔の会話を思い出すぐらい私は重症なのだ。
「木兎さんは月で、赤葦がほし。たくさんの中の一つにしか過ぎない」
赤葦はそう言っていた。確かに、赤葦にはプロになる実力はない。木兎さんの一生のパートナーにはなれっこない。大きな大きな月に例えられる木兎さんみたいな人にはなれない。
たしかその時は赤葦がなにか凹んでいたのだ。理由は教えてくれなかったけど、あの赤葦が、私に弱音をはいたのだ。そのときは気付けなかったけど。アレはきっとそうだ。そのとき自分がなんて返したかなんて忘れた。あまり考えずに思ったまま返したのは確かだろうから馬鹿なことしか言ってない気がする。
赤葦の好きなものはだいたい私は嫌いになる。好きになってもらえるのが羨ましくて、小さなものにも嫉妬する。菜の花にまで嫉妬した時はほんとに自分は雑草以下だ。って落ち込んだ。悲しいことがいっぱいあった。でもそんなの気にならないくらい好きで、大好きで、誰にも、隣を譲りたくなかった。でも、あんなに冷たい目を向けられたのは初めてでもうダメなんだって思った。もうこの人は私を棄てるって思った。実際に、別れを言われたのだから。
家に着くとなにか丸い大きなものが家の前にあるのに気づく。歩いて近づいていくとそれが人だとわかり、ちょっとびっくりしてどこか悪いのかと声をかけようとしたとき、その座り込んでた人と目が合った。あか、あし。戸惑いながらその名前を呼ぶと話がしたい。と言われた。今更何を話せばいいのかわからなくて返事に困っていると冷えた。っといって私に冷えきったその手で触れてどれだけ冷えきっているのかが伝わり、慌てて家の中に入れて、暖房もつけて毛布で赤葦を包んだ。
「いま、湯たんぽも作るから待ってて。」
「なまえそれよりも話が」
「話はあとで聞くから。とにかくそんなんじゃ風邪ひいちゃうから」
「大丈夫だからこのくらい」
「大丈夫じゃないよ!赤葦はそうやってすぐに自分を蔑ろにするのやめた方がいい」
バタバタと動き回りながら怒るとごめん。と素直に謝られた。よろしい。といって湧いたお湯で湯たんぽと赤葦用にコーヒー。自分にココアを入れて座ってからやっとこの光景の異様さに気づいた。なんでこうなったんだっけ??
「えっと、と、どのようなご要件でしょうか」
「そんなに身構えられると傷つくんだけどな」
うっ。と胸に刺さりあわあわとすると赤葦はくすりと笑う。なんで笑われたの???
「先に聞きたいこと聞いてもいいかな?」
「は、はい。」
「着信拒否してたのは、そんなに俺のことが嫌いになったから?」
「え?なにそれ?」
「・・・とりあえず違うみたいで安心した。」
「そう?」
「じゃ、本題を言うとやり直したいって言いに来た」
「・・・・・・ん??」
どうゆうことだろうか。やり直したい、とはなにを?どこからどこまで??わけがわからなくて頭を悩ませた。それに気づいた赤葦は困った顔、というか悲しそうというか、そんな感じの顔になった。
ごめん、全然話聞かなくて。月島から全部聞いた。不安にさせてたことも、バレー辞めて欲しいって話がどういう流れで話したのかも。木兎さんばっかりでほんとうにごめん。何も言わないことをいいことに自分勝手になってた。ほんとにごめん。
「それから、好きです。だから、もう一度付き合ってください。」
お願いします。といって深く頭を下げられ、慌ててとめるけど赤葦は頭を上げてくれなかった。もういいからって何度言っても聞いてくれなかった。
「今更遅いかもしれないけど、許してくれるまで謝る。今日がだめでも、ずっと許してくれるまで」「・・・あのさ、許すから。かわりにお願いきいてくれない?」
「お願い?」
「もっと、ちゃんと赤葦と話したい。思ってること。今聞いたのが全部でももっと、詳しく聞きたい」
「うん、俺も。知りたいし、知って欲しい」
「じゃ、とりあえず仲直り、しよ?」
そういうとやっと赤葦は私の顔を見て優しく笑ってくれた。よかった。よく分からないけど、仲直りがてきそうだ。ゆっくり、たくさん話そう。たくさん聞いてもらおう。沢山聞かせてもらおう。思ってること、思われてるとこ。だって、今聞いたことも全然しらなかった。私たちちゃんともっと話せたら、もう少し違う関係を築けるかもしれない。それから、それから、本当によりを戻せたらいいな。


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