短編 | ナノ




放課後の部活

決まった時間になると俺はちらちらと扉に視線を送る

あ、きた

「なまえ先輩!」

「こんにちは黄瀬君」

笑顔で挨拶を返してくれるのは二つ上の先輩

彼女は料理部の部長をしていていつも差し入れをくれる

そのすべてが栄養についてしっかりと研究されており、俺たちに必要なエネルギーを考えていつも作ってくれる

まぁ、試合が近くないときは彼女の趣味で作るものしかないっすけど

もちろん栄養バランスは取れてる

「今日はなに持ってきてくれたんっスか?」

「お菓子だよ。たまには糖分も必要だからね」

そういって彼女は優しく笑う

俺は彼女のその笑顔に癒され

そしていつの間にか恋をしていた

「笠松先輩に声かけてきますね」

「ああ、いいよ。いつもみたいにここに置いておくから」

「でもせっかく作ってきてくれたのに・・・」

「いつものことよ。幸男によろしくね」

そういって彼女はいつも帰っていく

俺はいつもその背中を見送ることしか出来ない

「ダメっすね・・・俺・・・・」

好きな人に何もできないなんて

ホント、ダメっすわ

そう、彼女は俺の片思いの相手だ









彼女を知ったのは海常のバスケ部に入ってすぐのこと

体育館の端に見慣れない箱を見つけたことが始まりだった

「笠松先パーイ」

「なんだ黄瀬?」

「これ誰かの私物っスか?」

そういって俺が指差している箱を見ると笠松先輩は苦笑してみせた

「それは差し入れだ。」

「俺のファンからっスか?」

「ちげぇよ。俺の知り合いからだ」

そういって笠松先輩は箱の傍までやってきて持ち上げた

「今日はゼリーってとこか」

「え?」

いきなりそんなことを先輩が言うから驚いて固まった

何よりあんな先輩の顔初めて見た

放課後、先輩の言った通り箱からはゼリーが出てきてみんなでそれをわけた

次の日俺は昨日のさしいれの人物が誰なのか気になってちょこちょこ扉の方を見るようになった

2時間くらいの練習の後、箱はやってきた

彼女に連れられて

俺が何かを言う前に笠松先輩の「10分休憩だ」という声が聞こえた

そして先輩は彼女の方に近づいていく

「お前、いい加減やめていいからな?それ」

「何言ってるの幸男。私は海常が全国に行くまでしっかりと陰ながら支えるのよ!」

「陰過ぎて昨日黄瀬がその箱みて怪しんでたぞ」

「えぇ!?ちょっとなんで幸男説明してないのよ!?私ツチノコみたいじゃない!!」

「だれもそこまで言ってねーよ」

言い合ってるのにすごく楽しそうな声

興味本意で俺は2人のもとに近づいた

「笠松先輩」

「あ?黄瀬か」

先輩は俺を見ても特に変わった反応はなかった

彼女は俺を見てパッと明るい表情になる

ああ、周りと変わらないような子なのか。と一瞬思った

「綺麗な髪だね。素敵」

「え?」

「・・・馬鹿」

俺は予想外の言葉に固まった

「だからお前は何でもかんでも思ったまま口にするのはやめろ!」

「初めまして後輩君。幸男の幼馴染のなまえです」

「人の話を聞け!!」

変な先輩。

それが第一印象

でも彼女を知るたびに、その優しい笑顔に触れるたびに

俺はひきつけられる

でも知ってしまったんだ

「ねぇ、幸男。好きだよ」

「なっ、いきなり何言ってんだ」

「幸男は・・・?」

「俺も・・・」

「″俺も″じゃわからないよ」

「っ・・・好きだ」

「ふふ」

「何幸せそうに笑ってやがる」

「だって幸せなんだもん」

彼女は尊敬する先輩の彼女だった





僕の恋心は散ることも咲くことも出来ない


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