短編 | ナノ




※続き

突然の休部届に驚かない人はいなかった。2週間、そう期限づけられてはいるもののなぜ今突然。そうみんな思ったんだろう。それを知った同期にもどうしたんだって聞かれて何とかごまかして期限を二週間としてることもいっておさめてた。二年生も廊下で会った時に心配されたけどちゃんと期限のことを言えばあまり深くは聞かれなかった。
それでも休部をしてから3日たったお昼休み、押しかけてきたのは一番元気な後輩だった。昨日知ったらしくなんでですか!と教室を覗き込み、私を見つけてからすぐにそういいに来た。最初は何のことかほんとにわからなくて首をかしげたら休部するって冗談ですよね?!と聞かれてそういえば直接話したのは夜久だけだったと思いだす。全部あいつならうまくやってくれるだろうって押し付けてしまったのだが、この後輩にはそれは無理だったらしい。もともと言い訳は考えてたからよかったんだけどあまりの行動力に正直感動すらした。先輩の教室に入るって私かなり勇気必要だったんだけどな。
「受験生だから、あまり部活ばっかりやってられないのよ」
「それはほかの先輩たちだって一緒じゃないっすか!」
「うん、だから夏まではずっとやってたじゃん?」
「でもほかの先輩たちは春まで残るって!!」
「わたしは、選手じゃないから」
その言葉を聞いた瞬間リエーフは目を見開き何かを言おうと口を開く。でもすぐに夜久が止めに入りどこかに連れていかれた。この言い合いはあまりにも大きな声で騒いだ後輩のおかげで結構教室中の視線を集めていていたたまれなくなって外に逃げ出す。そしてばったり出くわした黒尾と目が合い思わず目をそらした。あはは。って笑って見せたけど黒尾は何も言わず去っていく。隣で寄り添っている恋人を連れて。今の、聞かれちゃったかな。唯一黒尾だけは、休部してから何も言ってこなかった。やっぱり、そうだよねってどこか納得できてる自分と、なんでって我儘にもほどがある自分がいる。仲間になれないなら、マネージャーなんてやらなきゃよかった。そんな気持ちを持ったままみんなのサポートなんて到底できやしないんだ。ごめんね、リエーフ。
このご時世屋上なんて開いてはないけどその目の前のスペースにおかげで人が近づくことは少ない。だからここなら誰もいないだろうって思って階段を上がった。携帯のバイブがなり画面を見るとメールが来ていた。夜久からリエーフは俺がどうにかするからってメールに安心したのと同時に申し訳なく思う。お手数おかけします。それだけ返した。
そうやってよそ見をしながら階段を上っていたからまさか目の前に誰かいるなんて思わなくて前を見た瞬間驚いて目を見開いた。
「研磨・・・・」
「うん」
「えっと、こんにちは?」
「・・・・座れば?」
そういわれて隣にお邪魔しますといって腰かける。持ってきたお弁当を広げてお箸でつまむ。口の中にいれればやさしいお母さんの味付けになんだか安心した。研磨はもうすでに食べ終わっているのか携帯のゲームに夢中である。充電なくなるよといって持ってきた充電器を差し出せばありがとう。と素直に受け取ってくれた。
お弁当を食べ終わり、お茶をごくりと喉を鳴らしながら飲んで持ってきた小さなカバンにしまう。ごちそうさまでした。とちゃんと言ってふぅっと息を吐く。さてさて、リエーフが簡単にあきらめるとは思えない。とはいえ一応期限はあるのだから最後は戻るのだ。たかが二週間私が抜けることにそんなに意味があるとは思えない。なのにどうしてリエーフはあそこまで騒ぐのだろうか。ハーフだからオーバーなリアクションになるのだろうか。
「いつ、戻ってくるの」
「へ?」
突然言われたことにとっさに理解ができず間を開けてしまったが、研磨と私の関係を考えればバレーしかないし、今先ほども後輩に問い詰められたばかりだったことを思い出して苦笑し二週間すれば戻るよって答えた。そう。とあまり興味なさそうな返事はやっぱり研磨だ。このくらいの対応でいいのに。リエーフと研磨を足して2で割って・・、もうるさそうだな。無理だ。
「リエーフが、昼休みになまえのところに行くって言ってた」
「来た来た。だから教室居ずらくなって逃げてきた」
「2週間したらほんとに戻ってくる?やめたりしない?」
「やめないよ。夜久と約束してるし、一応マネージャーにも仕事あるじゃん?毎日いる必要はないけどさ」
言った後に後悔した。ほんとに、何やってるんだ私。後輩に八つ当たりもいいところだ。ごめんわすれて。っていったらいいのか、冗談だよって笑えばいいのか。どの言葉が次につなげるのなら適しているのだろうか。とりあえずごまかそうと思って研磨のほうを見ると目がばっちり合う。じっと見つめられていることに初めて気が付いた。
「あるよ、必要」
「必要?」
「なまえが体育館にいなかったら・・・なんか変。」
「その話か。あー、気にしないで。あんまり考えずに言ったことだから」
「いつもいてくれたのに、急にいなくなったらびっくりするし、寂しいと思う」
「いやいや、たかだかマネージャーいなくなるだけだし」
「マネージャーでも、仲間でしょ」
「っただの雑用係だよ。先輩たちもよく言ってたじゃん」
「それでも俺は仲間だって思うよ。」
なまえは違うの?って聞かれて首を横に振る。ぽろりとこぼれだした涙を慌てて拭いてもなかなか止まらなくて、それには研磨もびっくりしたみたいでおろおろしだす。仲間になりたい。その気持ちが間違ってない。肯定された。まっすぐ、ちゃんと私を仲間だって言ってくれた。うれしかった。夜久はやさしいから、そう臆病になって逃げていた自分が馬鹿らしくなる。大丈夫、夜久だけじゃない、ちゃんと私、仲間って言ってもらえた。
「2週間したら、戻るから。絶対。やることちゃんとやって」
「・・・・うん、待ってる」
視野が狭くなっていた。別に黒尾だけじゃない、仲間って言われたいのは。仲間って思われたいのは。こんな私を待っててくれるっていう人がいる。だからちゃんとやるべきことと、この気持ちの整理をつけて戻ろう。きっと次体育館で会うときはもう過去になってるはずだから。

捨てるための時間



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