「仙石くんは何で私と付き合おうと思ったの?顔?」
「そうじゃないよ、もしレミが違う顔だったとしても、俺はレミを好きになったと思う」
「ほんとかなー」

 レミは頭が悪いから、何も考えてないように見えて、実は結構途方もないことを考えていたりする。無駄に哲学的だったり、禅問答みたいだったり。レミの突然の言動に驚くことには慣れてしまった。

「ねえ、仙石くん」

 外の冷たい風が入ってきて、俺は小さく身震いした。中途半端に開いている窓を閉め、施錠する。空には夕暮れが迫っていた。

「もしもレミがいなくなったら仙石くんは探さないでね」

 二人きりの生徒会室に、彼女の声が響く。


チキン彼氏


 レミはその辺のプリントで紙飛行機を折って、飛ばした。必要な書類だったらどうしてくれる。窓にぶつかって虚しく床に落ちたそれを、拾うことはしない。

「探すよ、きっとめちゃくちゃ頑張って」
「だめだよ、探したらだめ」
「何で?」

 スカートの下にジャージを穿いたレミは、にっこりと笑った。今年もジャージの季節になったか、早いなあ。気付いたらいつの間にか卒業してそうだ。いや、それはちょっと言い過ぎか。

「待ってくれてる人がいないと、帰れないでしょ」
「待ってるよ。待ちながら探す」
「だからだめだってばー」

 レミは拗ねたように頬を膨らませた。だって、無理だろ、探さないでただ待ってるなんて。レミがいなくなったら、とか、考えるのすら嫌だ。

「探したいよ、怖いから。レミが帰ってくる確信ないし」
「そんなに信用ないかな…。仙石くんってチキンだね」
「チキンでいいから、探す」

 そう言ってもうひとつ、紙飛行機を飛ばした。俺の肩に当たってゆらゆら墜落するそれを、何となく手に取って広げてみれば進路希望調査の紙だった。クラスと名前が書いてあって、第一希望の欄には「仙石くんのお嫁さん」の文字が乱雑に消されて跡が残っていた。俺はその紙をゴミ箱に捨てて、椅子に座るレミの傍へと何歩か歩いた。

「レミがずっと俺の近くにいればいいじゃないか」
「えー」
「そしたら探す必要もない」
「束縛されるのは嫌いだなあ」

 嫌いだなって言いながら、嬉しそうに笑うなよ。言葉がほしいなら素直に求めればいいのに、変なところでひねくれてる。

「束縛じゃなくて、レミの意思で俺の傍にいればいい」
「チキンだけど仙石くんってときどきカッコイイこと言うよね。……帰ろっか」

 何事もなかったように鞄を持って立ち上がる。レミには取るに足らない、ただの暇潰しにすぎない話題だったのかもしれない。

「え、ジャージ穿いたまま帰るの?」
「うん。隣歩くの恥ずかしい?」
「うん」
「じゃあ穿いて帰ろ!」

 機嫌よく俺の手を握る。レミがいつか俺の奥さんになればいいのにって、真剣に思ったのはたぶん、この時が初めてだった。




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