透に背中をあずけて、私はゲームに熱中。密着する体勢に、私たちはすっかり慣れてしまっていた。健全な高校生の男女が部屋でゲームするだけなんて、あり得ない話かもしれない。
いちごのくちびる、止まる呼吸。
「そこ、右んとこ行くとたしかアイテムあんぞ」
「あ、ほんとだ」
私は、透がたまに宮村のことをすごく冷たい目で見ているのを知っている。本人は無意識かもしれないけど、宮村もきっとその視線に気付いてる。透はまだちょっとだけ堀のことが好きで、宮村のことが嫌いだ。もちろん、口には絶対出さないけど。ただの友達になるには少し、複雑な関係だなあと思う。
「なんか強そう」
「体力やべーかもな」
この透の部屋には、ほぼ私専用だというクッションがあって、何度か寝たことのあるベッドがあって。だけど透は私の彼氏じゃないし、私は透の彼女じゃない。私が無防備に寝ている間に、こっそりキスしてくれたことくらいないのだろうか。ぐっすり寝ているから分からない。透とは、付き合うとかそういうんじゃないけど、いつも彼がネクタイを外すとき、何となく疚しいことを考えてしまうから直視できなかったりする。
「案外大丈夫だったな」
「セーブセーブ」
あったかい背凭れ、私重くないかな。かけている体重を、ほんの少し軽くする。ゲームそろそろやめようか、もう少し行ったら中ボス出てきそうだから、やっぱり続けよう。私はいつまで、こうやって透と二人きりでいることが許されるんだろう。
「透に彼女ができたらさ、私もう来れなくなっちゃうね」
自分で言いながら、やだなって思った。私じゃない女の子をこの部屋に呼んで、あのクッションを使わせて、ベッドに寝せてあげたり、いろんなことするなんて、考えるだけで胸がもやもやした。
「できねえよ。みんな俺と吉川が付き合ってると思ってんだから」
迷惑なのかな。私は全然いいけど、迷惑ならちゃんと言ってほしい。でも言われたら絶対泣いちゃう。私、面倒くさい女だな。こんな女と一緒にいられるの、透くらいだよ。透しかいないよ。
「透はさあ、私とキスできる?」
後ろで、一定のリズムだった呼吸が不自然に止まったのが分かった。ゲームから目を離さないまま、透の答えを待つ。リップを塗った私の唇は、いちごのにおいがするはずだ。
「…多分、できる」