太陽に反射してキラキラと光る金髪がやけに眩しかったことをよく覚えている。初めて出会ったあの日、鳩を介して腹話術で話す俺を見てあいつはその綺麗すぎる真っ青な瞳を丸くした。そうしてすぐに屈託のない笑みを浮かべ、「よろしくな」と手を差し出す。眩しさに目を細めながらパウリーの手を握り返せば、その手はやけに暖かかった。


真っ黒な正義と金色の


 誤算など何もないはずだった。船大工としてこの町に馴染みながら、与えられた任務をこなす。今までなら容易かったそれが、たった一人の男のせいで少しずつ、しかし確実に崩れていくのを俺は誰よりも感じていた。所詮俺は人間だったんだ、殺戮兵器などといくら呼ばれようとも、結局どうあがいたって人間なんだ。

 隣で眠っていたパウリーの瞼がゆっくりと押し上げられ、青色がぼんやりと俺を見つめた。手を伸ばし俺より高い体温の頬に触れれば、寝惚けているためか自分から擦り寄ってきた。それに気をよくした俺はパウリーが完全に目覚める前にシャワーを浴びてしまおうとベッドから抜け出す。その辺に放り出されていた衣類を集めてから風呂場へと向かった。

 俺はどうするつもりなのか、否、どうしなければならないのか。考えるまでもなく答えはとっくに決まっていた。確実に別れが来る、殺すときがくる。だというのにどうしてか、この泥沼のような心地好さから抜け出せずにいた。初めてだ、こんな、馬鹿みたいな感情は。仮に、だ。絶対にあり得ないがもしも、これから先パウリーと生きていくためには、正義を捨てなくてはならない。ずっと俺と共にあり、今の俺を形作った元凶。だけど俺は絶対に正義を捨てられない。俺はそれしか持ってない。それがなくなれば俺は本当に、ただの。嫌な思考回路を振り切るように、濡れた前髪を掻き上げた。何度考えたって辿り着く答えが変わることなどない。俺はパウリーとの出会いから間違えたんだ。最初からもっと、遠避けておくべきだった。

 ベッドルームに戻ると、パウリーはシャワーを浴びる前とまったく変わらない状態だった。起きるどころか、また眠ったらしい。これが休日ならばもう少し寝かしてやったかもしれない、しかし生憎今日は出勤日だ。そろそろ準備しないと、二人揃って遅刻だ。

『起きろ、パウリー』

 窓際に待機しているハットリを使って呼び掛ける。それでも起きる気配がないから拳骨を落としてみれば、パウリーは眉間に皺を寄せ恨めしそうに俺を見た。

「……いてぇ」
『お前が起きないのが悪いんだ、ポッポー』

 頭を押さえながら昨晩のことを思い出したのか、急に顔を真っ赤に染めて居心地悪そうに目を泳がせた。俺が布団を剥ぎ取って早くしろと急かすと、布団を返せと喚き出す。いつものパターンだ。

『今さら何が恥ずかしいんだ』
「う、うるせえな!」

 さらけ出された裸に刻まれた鬱血痕に優越感を覚えながら、服を投げ渡してやる。

『とりあえずシャワーを浴びてこい』
「……ルッチ、」

 二人分の食事を作るために台所へ向かおうと踵を返したが、自分の名が呼ばれたため振り向く。本名を名乗っていてよかったと、最近特に思う。名前というものの大切さを、少しだけわかったような、わからないような。ただ、パウリーに呼ばれるのは、嫌いじゃない。

「何か、あったのか?」
『どうして』
「いつもと、違う気がした」

 さっきいろいろと考え込んでしまったせいか。あの程度で顔や態度に出るはずはないが、パウリーには気づかれてしまうらしい。いつもは鈍感なくせに変なところで鋭いやつだ。俺が大きな隠し事をしているのも、どこかで分かっているのかもしれない。

『気のせいだ、クルッポー』
「なら、いいんだけどよ…」

 何となく不安そうなパウリーに近づき、その額に唇を押し付けた。

『辛気くせぇ面するな』

 パウリーは案の定また赤面して、俺は笑った。何だ、まだ普通に笑えたのか、と少しだけ驚いた。笑っている俺に仕返しとばかりに頬にキスをされた。まるでガキみたいなそれが、俺は嬉しかった。パウリーは恥ずかしそうにしながらもニイッと少年のように笑ってみせた。

「好きだバカ」

 深い闇を照らすたったひとつの太陽のように。その眩しさに、俺は目を細めるしかないのだ。今はまだ逸らさずに見つめていたいと、強く思いながら。




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -