私がどうして不動の家の合い鍵を持ってるかなんて聞かないでほしい、そんなの私も知らないから。成り行きで持ってるだけで別に不動とは何の関係もない。ただどうしてか私は不動を放っておけない。だってあいつ面倒だからって食事をとらなかったりするのよ、放ってたら死ぬんじゃないの、……別に死なれても困らないけど。だから今日も私は一人暮らしをしている不動が住む安アパートの部屋の扉を開ける。物音一つしない室内、いくら休日といってもすでに時刻は午後二時。

「まさか寝てるなんてこと無いわよね」

 狭い玄関でブーツを脱ぎリビングへ向かうと、フローリングの床で不動は毛布にくるまって寝息を立てていた。

「起 き ろ」

 その丸まった背中を遠慮なく片足で踏みつけた。不動は小さく唸ってゆっくりと目を開け顔だけを私に向けた。

「……ピンクのストライプ」
「は?」

 寝起き特有の掠れた声で不動は呟く。

「パンツ見えてんぞ」

 そういえば今日はスカートだった、でも不動に対して恥じらいなんてものは微塵もない。小さく溜息を吐いて足を退かすと、不動は大きな欠伸を一つして上半身を起こした。

「最近ちゃんと食べてんの?」
「んー、微妙。昨日は何も食ってない」
「あんたねぇ、自炊できるんだからしなさいよ」
「めんど、」

 この男は自分をどうでもいいと思ってるところがある、自分第一のナルシストは気持ち悪いから止めてほしい、だけど自分を大切にしなさすぎるのもどうかと思う。人間は結局自分が一番かわいいと思ってしまう生き物だって誰かが言ってた、だったら不動は何なの。

「あんたさ、もっと自分かわいがりなさいよ」
「だって俺小鳥遊みたくかわいくねーし」
「冗談やめて」

勝手にキッチンに行き冷蔵庫を開けるとほぼ空だった。冷凍庫にはフライパンで軽く炒めるだけ出できるお手軽なチャーハンがあった、よし、賞味期限は切れてない。リビングに戻ると不動は毛布にくるまったまま携帯をいじっていた。

「不動、チャーハン食べる?」
「食べたーい、小鳥遊の作ったチャーハンが食べたーい」

 自分で作るのが嫌だからってニヤニヤしながらそう言う不動の頭を叩いておいた。世話の焼ける男、勝手に世話を焼いてるのは私だけど。

「…なんか、不動って出来の悪い弟って感じ」
「姉ちゃん腹減ったあ」
「あんたみたいな弟絶対いらない」
「つれねえこと言うなよ」

 腕を引かれて体が傾く、何とか倒れ込まないように耐えたけれど、唇に柔らかい感覚、うわ。

「な、チャーハン作ってよ、姉ちゃん」

 どうしてくれるの私のファーストキス。不動に思い切りデコピンをお見舞いしてキッチンに立つ。チャーハンの入った袋の裏にある説明を読みながらまた溜息。結局こうして甘やかしてしまうあたり、私は駄目な姉らしい。姉にキスなんかする弟の方がよっぽど駄目だと思うけど。




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