※高校生


 鬼道くんに彼女ができたと、源田からのメールで一ヶ月くらい前に知った。何でわざわざ俺に知らせたのか定かじゃないが、ただなんとなく誰かに教えたかったんだろう。そういえば源田と鬼道くんは同じ高校だっけか、あと佐久間も。入学して一年以上経ったんだから彼女くらいできてもおかしくない。自分でも驚くほど何も感じなかった。まったく心がちくりとも痛まない、悲しくも悔しくもない。その程度のものだったのか、俺が鬼道くんを好きな気持ちは。

「…いや、ちげぇな」

 いつかこういう日が来ることがわかっていたから、冷静でいられるのかもしれない。心構えができてたんだ、と思う。

「悪い不動、遅れた」
「おー久しぶりだな。遅れたってたった十分じゃん」

 今日は鬼道くんと放課後に会う約束になっていた、誘ったのは俺じゃない。実際何度か誘おうと思ったけど彼女がいるから気が引けた、邪魔したらわりぃじゃんか。お互い制服姿を見るのは初めてで新鮮だった。そして俺は相変わらず鬼道くんが好きだと思った。

「卒業式振りか…高校入ってから時間が経つの早いな」
「だなー。あ、腹減ったからどっか店入ろうぜ」

 近くのカフェに入り、適当に注文してそれを受け取り席を探す。少しばかり混んではいたが、奥の方に空いてる席を見つけた。椅子に座りブラックコーヒーに砂糖を溶かしてミルクを入れる。鬼道くんはブラックのまま飲んでいて、苦そ、と顔をしかめたら笑われた。どーせお子様ですよ。初めは近況報告みたいなとりとめもない話をした。一年以上会っていないしメールも頻繁にしていた訳じゃないからネタはいくらでもある。途中、鬼道くんに電話が掛かってきて会話は中断された。俺はマフィンを齧って甘いコーヒーを飲みながら、彼女かな、と思った。返事の仕方とか雰囲気的に、そんな感じ。割りとすぐに電話を切って、鬼道くんはすまないと謝った。

「なあ、彼女できたんだって?」
「…誰から聞いた」
「さっきの電話も彼女だろ?」
「察しがいいのは変わらないな」

 気恥ずかしそうに鬼道くんは笑った。やっぱ彼女からだったのか、「今日はちょっと…用事が、」とか言ってたから会おうとしたんだろうな。申し訳ねぇ、あんたの彼氏ちょっと借りるぜ。

「源田から聞いたんだよ。かわいい?プリクラとかねーの?」
「源田のやつ…、かわいいとか、そんな……好きだからかわいいに決まってる」

 …おお、こいつ思いっ切り惚気やがった、俺の気も知らねぇで。いや、知られてたら逆に困るんだけどよ。だって気持ち悪いだろ、男が男を好きだなんて。鬼道くんにもし告ったら、まあ、露骨に避けることは絶対にしないだろうし、たぶん今まで通り接してくれると思う。こいつはそういう人間だ。でも、なんつーか、目に見えない壁ができる気がする。どこかで引っ掛かる、何かが噛み合わない、そんな関係になってしまうような。

「どっちからだったんだ?」
「俺から、だ」
「案外やるねぇ鬼道くん!」

 だから言わなかった、言えなかった。ずっと好きだったのに、崩れるのが怖くて。

「いつから付き合ってるんだっけ?」
「もう俺のことはいいだろ!不動こそどうなんだ」

 顔赤くしちゃってさぁ、何だよ、ちょっとだけ妬ける。

「鬼道くん、俺ね」

 考える前に言葉がするすると出ていく。自分の意思で喋っているはずなのに、俺はそれを他人事のように聞いていた。

「俺、お前のことが好きなんだけど、けっこー前から」

 顔を見れず鬼道くんの首の辺りに視線を落とした。冗談だよって言えば、なかったことにできる。けど、俺は冗談だなんて言えるほど出来た人間じゃなかった。

「嘘じゃねぇ」

 そう止めを指して、カップを口許に運ぶ。今まで我慢してきたのに結局言っちまうなんて、ただのバカじゃんか。会えなかった分気持ちが爆発した、そんな感じ。あーあ、この空気どうしろってんだよ。一口飲んだコーヒーは、温くてやっぱり甘かった。




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -