※事後注意


 たしかに、鬼道くんを好きな気持ちに嘘なんてない。だけどこればっかりはほんと、どうしようもないことで。

 セックスした後そのまま眠っていたらしい。と言ってもそう長い時間は経っておらず、時計は午前二時を指していた。起きた瞬間腰に走った痛みと倦怠感に俺は眉を顰めた。隣では鬼道くんが死んだように眠り続けている。寝息が聞こえるから生きてはいるだろうけど、久し振りのセックスにお互いかなり疲れたらしい。鬼道くんの頭を優しく撫でると「ふ、どう」なんて俺の名を呼ぶものだから驚いて手を引っ込める。しかし目を冷ます気配はなく、ただの寝言かと小さく息を吐いた。とりあえず服を着ようと立ち上がると、股の間を何かが垂れていく感覚に背筋がぞくりと粟立つ。言わずもがなそれは鬼道くんの精液で、いつもは処理をせずに寝るなんてことがないからすごく気持ちが悪い。脱ぎ捨てられた服を掴もうとしていた手は無意識に胃の辺りを押さえ、俺は風呂場へと足を向けた。

 抱き締められるのも手を繋ぐのも、キスだって俺は好きだ。ただどうしても、セックスだけは嫌い、大嫌いで。別に鬼道くんが下手くそとかじゃなくて、むしろ上手いから気持ちよくなって結局いつも流されてしまう。じゃあ何が嫌いかって、犯されてる自分が。電気は点けずに風呂場に入り、冷たいタイルに膝を突く。シャワーのコックを捻り水を被る。今はぬるま湯になんてあたりたくはなかった。ぼうっとしていた頭が徐々にクリアになる。そうしてゆっくりと後ろに手を伸ばし、入り口の付近をなぞってみる。その感覚がさっきの情事を思い出させて呼吸が苦しくなる。セックスは嫌いだ。女みたいに突っ込まれてあんあん喘ぐ自分が気持ち悪くて堪らない。あんな行為に快感を見出だす自分が信じられない。

「っ、う」

 つぷりと指を侵入させ、中にあるものを掻き出そうとする。自分でやっていることにすら腰が熱くなる。どうして、俺は男なのに、中を擦られ奥を突かれて、もっともっとと強請って。嫌だ、汚い、気持ち悪い、きもちわるいきもちわるいきもち、いい。

「ん、ふぁッ…ぐ、ぇ」

 甘ったるい声が出た途端、もう我慢ができなくなった。胃の中で渦巻いていたものが一気に迫り上がって喉に焼けるような痛み。耐えきれず両手をタイルに突いて思い切り吐いた。しかし夜は何も食べていなかったから胃液しか出てこず、吐きたいのに何も吐けない苦しみに襲われる。生理的な涙がじわりと滲んで視界を歪ませた。

「げぇっ、う、ぐ、…はッ……ごほっ、」
「不動」

 咎めるような声に俺はびくりと体を揺らし、ゆっくりと顔を上げた。鬼道くんはもう、ちゃんと服を着ていた。裸で後処理をしながら嘔吐する自分がものすごく惨めに思えた。

「俺が出したものなんだから後処理は俺にやらせてくれ」
「…ごめん」
「謝らなくていい」

 鬼道くんは濡れるのも構わずに俺の前にしゃがんだ。服がどんどん水を含んで鬼道くんの肌に張り付く。シャワーの水と涙と涎と胃液とでぐちゃぐちゃな俺の顔を見て、申し訳なさそうな、泣き出しそうな、呆れたような、苦しそうな、嬉しそうな、いろんな感情が入り交じった目をして鬼道くんは笑った。ああ、息が詰まる。鬼道くんはそっと俺を抱き寄せた。震えているのは、きっと寒さのせいだけじゃない。罪悪感と後悔と、ほんのちょっとの幸せが、吐き気と一緒に排水口へ流されていった。


▼企画、嘔吐様に提出させて頂きました。




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