俺も緑川も、昔から夜空の星を眺めるのが好きだ。緑川はずっとずーっと前の光が今地球に届いていることに感動するらしい。俺はただ単純に、きらきらと輝く星が綺麗だと思う。

「望遠鏡ほしいなあ」
「一度くらい、本格的に天体観測がしてみたいね」

 もっと近くで、手に取れるんじゃないかと錯覚してしまうくらい近くであの星たちを見たらどんなに綺麗だろう。

「緑川は、」

 俺の傍にいてくれる?そう尋ねようとして、女々しいからやめた。不自然なところで止まった言葉に、緑川は首をかしげた。俺たちは好き合っているんだからそんなこと確認する必要はないというのに、星を見ていたら何だか不安になってしまって。

「どうした?」

 急に黙った俺を心配そうに伺う。顔を覗き込むように、意図せず上目使いになっている表情に心臓がどくり、と跳ねた。

「好き」

 無意識の内に告げたそれは、なぜだか切ない響きをもって空気を揺らす。怖いんだろうな、と思う。人は死んだら星になるっていうから、縁起でもないことを考えてしまった。もしもどちらかがあんな遠くに行ったら、寂しくてどうにかなってしまいそうだ。

「怖いのか?」

 きっと緑川には分かってしまうんだろうな。俺のちょっとした表情の変化や声色で、俺が何かを怖がっていることくらい。手に取るように分かってしまうんだ。

「怖いよ」

 隠しても仕方ないから正直に答える。

「暗闇が?」
「違うよ」
「星が?」
「違うよ」
「…俺のことが?」
「違うよ」

 何を行っても違うと答える俺に口を尖らせ、じゃあ何が怖いのかと聞く。

「たぶん…全部怖いんだ」
「ふぅん、」

 素っ気ない返事は、何を言ったらいいのか迷った結果だろう。どちらも口を開くことなく、痛いくらいの静寂に耳を塞ぎたくなる。そんな矛盾に、俺は少しだけ笑った。

「死んでも人は、星になんかなれないんだってさ」

 俺の心を読んだかのようだったけど、緑川はただ思い付きで口にしたんだと思う。

「だったら、死んだ人はどうなるの?」
「さあ、知らない。死ぬっていう事実しか、そこにはないんだよ」

 流れ星が見えたような気がして、見間違いだったのかもしれない。流れていった星を、確認する術はなかった。

「そっか…死ぬって、怖いね」
「うん、怖い」

 俺たちは手を握り合って、夜空に瞬く星を眺めた。どっちの手が震えているのか、俺には分からなかった。


title:自慰




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