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「駆け落ちでもするか」

 俺の家で飯を食ってると、突然鬼道くんがそんなことを言い出した。口の中に入れた米が危うく喉に詰まりそうになってお茶で流し込む。鬼道くんは最後の一口を食べ終えると食器を流し台へ運び洗い始めた。

「いいのに、俺が洗うぜ?」
「いや、お前が作ったんだから洗い物は俺がする。ほら、早く食べて皿を寄越せ」
「さんきゅ」

 残りの物をさっさと口に入れ、食器をシンクに重ねて置いた。

「鬼道くんが洗うなら俺がすすいでやるよ」

 狭い台所に男二人立つには肩が触れ合う程で、少しだけ暑苦しかった。

「…お見合い、とか?」

 鬼道くんの手が一瞬だけ止まったのを俺は見逃さない。案の定というか、何というか。鬼道くんが何もないのに突然駆け落ちするか、なんて冗談を言うはずがないんだ。

「断るとマズイお相手?」
「いや…ただ父さんがいい加減困っててな」
「俺と駆け落ちしてもっと困らせるつもりかよ」

 そう言うと鬼道くんは自嘲気味に笑った。親としては鬼道くんの将来が心配なのだろう。いつまでたっても良い人を連れて来ないから、お見合い。俺たちも社会人になったわけだから、そろそろそういうのがあってもおかしくないんだ。鬼道くんはあの家を継ぐ身なのだから、その次の跡取りも当然必要なわけで。

「すぐには決めなくて良いと言われている」

 最後に鍋を洗い終え蛇口をきゅ、と締める。鬼道くんはシンクをぼうっと眺めたままポツリポツリと言葉を紡いだ。

「だが、いつまでも断り続けるわけにもいかない」
「そりゃそうだな」
「だからいっそ、駆け落ちでも、…できらかいいのにな」

 眉尻を下げて苦笑する、分かってるんだ、俺も鬼道くんも。駆け落ちなんてできるわけがない、現実的に考えて。ただ、そんな夢物語を口にしたくなる時だって、人間誰しもあるだろ?

「…いーよ、鬼道くん」

 隣にある鬼道くんの手を握ると、怪訝そうな顔で俺を見た。

「駆け落ちしよっか。だーれも知らないとこに行こうぜ?」
「…ああ、そうだな。うんと遠くに行こう」
「何もかも置いて、二人っきりで、手繋いでさ」

 俺たちにだって夢を見る権利くらいあるはずだ。

「鬼道くん」
「ん?」

 俺は無理やり笑顔をつくってみせた、上手く笑えてるか分からないけれど。

「俺、今幸せかもしんない」
「そうか、俺もだ」

 鬼道くんも笑ったけど、その笑顔は見るからに悲しそうで。ああきっと、俺も同じような顔をしているに違いないんだ。




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