「温くなったもんだよなァ、不動ちゃん?」
目覚めると俺は知らない部屋にいた。ひどく殺風景な狭い部屋で、あるのは薄くてボロい見た目からして固そうなベッドに、サッカーボールがひとつ。前言撤回しよう、俺はこの部屋をよく知っている。
「分かるか?覚えてるか?ここが何処か」
目の前には髪の毛に白のメッシュが入っていない、首からエイリア石をぶら下げた少し前の俺がいた。
「ああ、覚えてる」
「はっ!てっきりもう忘れたかと思ったぜ。ここでの日々も、俺のことも」
この頃の、真帝国のときの俺は本当に頭が悪かった。だから簡単に影山なんぞに唆されいいように利用された。世間に反発すれば認められると信じていた。そんな俺は実に哀れで、見ているこっちが泣きたいくらいだ。
「んだよその目は、」
背番号10を背負いキャプテンマークを着けた俺は、なぜだかものすごくちっぽけなものに見えた。そういえば馬鹿にされたり見下されるのを極端に嫌っていたな。もう一人の俺は拳を握り俺の顔を思いきり殴り付けた。俺の拳は予想以上に重く、痛い。ガードをとらなかったためモロにくらって床に倒れ込んだ。
「無様だな、周りに懐柔されやがって。イナズマジャパンはそんなに居心地いいかよ?」
手をついて起き上がろうとした俺をもう一度殴って馬乗りになり、ゆっくりと首に手をかけてきた。
「腑抜けやがって、思い出せよ!怨恨憎悪嫌悪恐怖、ほら、ほら、ほら!!」
段々と首への圧迫感が大きくなる、苦しい。夢かと思ったが殴られたら痛いし首を絞められたら息ができない。俺は俺に殺されるなんて、そんなのたまったもんじゃねぇ。
「いつからそんなに堕落したんだ?なあ、何とか言ってみろよォ!」
俺は首にかかる手に思い切り爪を立てた。首を絞める力が緩まった瞬間に相手の両手首を力の限り握った。
「いった、てめ、離せッ…!」
「お前は救われたいだけだ」
少しだけ瞳が揺れたのを、俺は見逃さなかった。
「誰かが手を差し伸べてくれるのを待ってる」
「ちげぇよ」
「自分が正しいと擁護してほしいんだ」
「知った口を聞くな!」
「だって、お前は俺だろ?」
忘れてなんかない、全部覚えてる。あの頃の怒りも焦燥も絶望も何もかも。忘れてなんかいないんだ。
「知ってる、お前は俺だ。それは今でも変わらねぇ」
「…るせぇ、二流のくせに、」
「二流なら二流らしく、一流目指せよぶぁーか」
俺がニヤリと笑ってみせると不動は心底嫌そうな顔をして。気づけばその姿は段々と薄れていっている。
「お前、変わったけどやっぱり俺に違いねぇな」
「当たり前だろ?」
消える前に俺は不動の首に掛かるエイリア石に手を伸ばし紐を引き千切った。不動はあ、と小さく声を上げて俺の前から消えていった。
「お前にこれは必要ねーよ」
手にしたエイリア石を部屋の隅に投げ棄て、俺は瞳を閉じた。立ち止まっている暇も、後ろを振り替える余裕も、今の俺にはない。歩みを止めるのは、全てが終わってからでも遅くないだろ。だから俺は歩き続ける、ただひたすらにてっぺん目指して、な。