「おい、不動。どこに行く気だ?」

 午前練習を終え皆が宿舎に戻る中、不動は一人グラウンドから階段を上り外へ出ようとしていた。

「ランニングだ、ちょっとこの辺の何週かするだけだよ」

 不動もやる気なんだな、と円堂はキラキラと目を輝かせた。俺は宿舎に向かっていた足を止め、踵を返して階段へと向かう。

「俺も少し走ってくる」

 俺の様子を見た不動は先に走り出した。いくら丸くなってもチームメイトと一緒に走ろうとは思わないらしい。

「お兄ちゃんも不動さんも、お昼までには戻ってきて下さいねー!」

 俺は春菜の声に手を挙げ答え、不動の背を追った。ストレッチも兼ねた軽いランニングだから全力で走っているわけではない。少しスピードを上げればすぐに不動に追いついた。俺の顔を見て舌打ちしなくなった分だいぶマシかもしれない。

「別に監視しなくてもあの時みたいに単独行動しようなんざ思ってねぇよ」
「そういうつもりで追いかけたわけじゃない」

 "あの時"というのは総帥の件だろう。ミスターKの事件では確かにすれ違いがあった。不動とは紆余曲折を経て、今ではだいぶ打ち解けたように思う、あくまで前と比べたら、ではあるが。出会いは本当に最悪なものだったにも拘らずここまで関係を築き直せたのは、元々お互い馬が合うところがあるのだろう。

「じゃあ何?鬼道くんは俺がだーい好きだから追っかけてきちゃたの?」
「だっ?!な、」

 自分でも面白いくらいに動揺してしまった。不動はからかっているつもりだろうが俺には冗談とは取れない。何故なら俺は、恐らく不動に恋をしているからだ。確定事項ではない、けれどそれは俺がただ自分の気持ちと向き合っていないだけのような気もするのだ。不動を好きだと認める勇気がない。

「そこで黙られると反応に困るんですケド…鬼道くんホモなの?」
「ち、ちがッ!俺が好きなのは、」
「音無ってか?シスコンめ」
「違う!いや違わないが今はそういう話ではなくて!」

 俺が必死に弁解するのを見て、不動は声を上げて笑った。それはいつものニヒルな笑みではなく年相応の無邪気なもので、俺もつられて小さく笑う。

「鬼道くんっておかしいよなぁ」
「モヒカンのお前には言われたくないぞ」

 不動にもこういう中学生らしい一面があるんだ。当たり前のことがただ嬉しくて、新しい不動を知れたことを喜んでいる自分がいて。ほら、この温かな感情に名前を付けるとしたら何だ?答えはひとつしかないんだ。

「俺はな、不動」

 視線は道の先に向けたまま淡々と告げる。

「お前のことが、もっと知りたいだけなんだ」

 不動は突然足を止めたが、俺はそのまま走り続けた。われながら恥ずかしいことを言った。友達として言ったんだと不動は受け取っただろうか。今はそれで良い、今は。

 「…んだよ馬鹿か俺は。チームメイトと親しくなりてぇなんて普通のことだろうが。変な期待してんなよ……」

 不動が自分に言い聞かせながら顔を赤く染めているなんて、俺には知る由もなかった。




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