「小鳥遊ー、飯食おうぜ」
「何処で」
「天気良いから今日は屋上」

 当たり前のように不動が私の手を引いて屋上へと向かう。これはもう習慣になっているもので、昼休みになると不動は必ず私とご飯を食べる。おかげで私は女の子の友達とガールズトークもできやしない、だけど拒否したことはない。不動と二人きりの時間は嫌いじゃないから。こう言うとみんなから嘘つき呼ばわりされるけど、私と不動は別に付き合ってない。好きだとも付き合おうとも言ってないし言われてもいない。友達以上恋人未満っていう感じで、すごく微妙な関係にある。自分でもたまに、どうして付き合ってないのか不思議に思う。不動のことは嫌いじゃないし、私も嫌われてはないはずだから。

 屋上へ続く階段を上ると、外に出られる鍵の掛けられた扉が現れる。生徒は通常屋上への立ち入りは禁止だ。不動はポケットから鍵を取りだし、鍵穴に差し込んだ。右に回すとカタンと鍵の空いた音がした。間抜けな先生が合鍵を落としたのを不動が拾ったらしく、それ以来出入りが自由にできるようになった。扉を開けると青い空が広がっていて、吹き抜ける風に髪の毛が揺れた。

「またコンビニのパン?」
「だって作るのめんどくせぇし」

 適当な場所に座って私は自分で作った弁当を食べた。別に特別おいしいわけじゃないけど、一応食べれるものになってると思う。

「あんたの分も弁当作ろうか?」
「え、まじ?」
「一人分増えたところでそう変わらないし、毎日コンビニパンじゃ味気ないでしょ」
「やった、明日から小鳥遊ちゃんの愛妻弁当ー」

 そう言って私の弁当箱から卵焼きをひとつ摘み上げて口の中に入れた。あーあ、私の大切なおかずが。というか愛妻って何よ愛妻って。

「お前って料理上手いんだな。意外」
「ひとこと余計よバカ」

 誉められたのは素直に嬉しかった。不動はパンをペロリと食べ終わり、その場に仰向けに寝転んだ。一度大きく伸びをして、ゆっくり目を閉じた。

「掃除の時間もここで寝ておくの?」
「…んー、わかんね」
「私掃除行くけど、起こさないでいい?」
「んー……」

 返事が適当になってきてる、半分意識が微睡んでるみたい。私は不動の隣で黙々と弁当を食べた。あ、飛行機雲。長く真っ直ぐくっきり出てるから写メっとこ。そういえば最近日差し強くなってきたからこれはたぶん焼けるな、日焼け止め塗り忘れたのよね。すぐ傍で眠る男は色が白いし、そこら辺の女の子より肌が綺麗だ。体質の問題だとは思うけどやっぱり羨ましい。髪の毛だって細くてふわふわしてるし、枝毛ばっかりの私の髪とは全然違う。メッシュの入ったモヒカンにそっと触れてみる。変な髪型、なんて考えながらくしゃりと撫ぜた。

「…あんたと、いつまで一緒にいられるのかしらね」

 不動が寝ているのをいいことに本音をこぼしてみたり。卒業はまだ先だけど、でもいつか別れが来る。こんな曖昧な関係、いつ終わったっておかしくない。会うこともなくなって連絡もつかなくなって、最後には忘れるんだろうか。忘れられてしまうんだろうか。

「ずっと、これからもずっと一緒にいられたら良いのに、」

 不動の目が、開いた、成る程寝たフリですかほんっとに趣味が悪い。不動の唇が弧を描いて、つまり私の独り言もばっちり聞かれていたわけで。穴があったら入って二度と出てきたくないわ。昼休み終了のチャイムが鳴り響く。五分後には掃除が始まる、今日はサボることになりそうね、今更この状況から逃げられそうにないもの。不動が口を開いて、とびきりの口説き文句を紡いだ。




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