「鬼道くん、寒くて寝れねぇ」
そう言って夜中、俺の部屋にやって来たのは不動だった。この温かい気候で寒いとはどういうことかと不思議に思ったが、俺はぼやけた思考で布団を捲り少しつめてスペースを空けた。暗闇で不動がにやりと笑った気がする。音もなくするりと入って来て、ベッドが一気に狭くなった。
「っ!」
不動の足が俺の足に触れ、その冷たさに鳥肌がたった。まるで暖をとるように足を絡ませてきて、背筋がぞわぞわする。
「お前っ、何でこんなに冷たいんだ…!」
「言ったじゃん、さみぃって」
「氷水にでも浸けていたのか?」
「んー、ヤな夢見た…ほんとにヤな夢……」
すっかり目が冴えてしまっていた。足だけ触れているのが恥ずかしく、もどかしく。徐々に暖まる互いの体温が心地良い。
「鬼道くんあったかいなー」
「お前のせいで目が覚めた、どうしてくれる」
「じゃあ…セックスでもする?」
俺のすぐ耳元で声が聞こえる。首の辺りに何とも言えない感覚が走って、思わず息を詰めた。俺と不動は付き合ってはいるものの体を繋げたことはない。したくないわけではないがそういう雰囲気にならないというか第一俺たちはまだ中学生なわけで…つまりその……。
「なんつって、冗談」
ケラケラという笑い声に、俺は手探りで不動の頬に手を伸ばした。ふにふにするその頬を両手でつまみ左右に引っ張ってやる。
「いっ!ひゃ、ひゃめろよばかぁッ!!」
不動の白い手が俺の手首を掴む。そこで今更気づく、顔の距離が異常に近い。鼻先が触れるか触れないか、互いの息づかいまで分かる。不動も戸惑ったのか目を泳がせていた。
「………明王、」
名を呼ぶと素直に目を合わせてきた。頬をつまんでいた指の力を緩め、少しだけ顔を近づけてみる。鼻先が触れた途端、不動が息を止めた。心臓の音が聞こえてしまいそうだ。ああやばい、頭がクラクラする。そっと目を閉じた不動の睫毛の一本一本がはっきりと見えた。静かに重なり合った唇、伝わる温度、聞こえる鼓動はどちらのものだろうか。そうして触れ合っただけで離れると、不動は突然口許を押さえ俺に背を向けた。そんな行動をとられるとこっちまで恥ずかしくなってきて慌てて俺も寝返りを打つ。
「あ、明日も早いから寝るぞ」
「おおおおう!おやす、み」
背中合わせで足さえ触れなくなってしまった。心臓は未だ鳴り止まない。不動が後ろ手に俺の服を掴んだ。
「またヤな夢見るかもしれねぇから…別にいーだろ!」
なんて言い訳付きで。俺は何も答えずにその手を優しく握った。少し驚いたようだったが振りほどくこともなく、むしろ軽く握り返された。暗い部屋、握り合う手と手。唇には、柔らかい感触と仄かな熱が残っていた。