これの続き


 カレンダーを見て、しまったと思った。春奈からも他のマネージャーからも、二月十四日にチョコレートを貰った。お返しの催促くらいしてくれれば良かったのに、ああ。正直、今一番申し訳なく思う相手は塔子だ。むしろ塔子のことしか考えてない。男として、やはり一日遅れでもお返しすべきだとは思う。だが塔子は忙しいらしく、最近は練習を見に来ることも少なくなった。会いに行って迷惑をかけたくはない。俺は携帯電話を取り出した。


 何度かの呼び出し音の後、プツンと音がしてよく知る元気な声をスピーカー越しに聞いた。

『もしもし、鬼道!?』
「今、大丈夫か?」
『うん、平気!』

 久々に聞いた彼女の声は耳によく馴染む。自然と頬が緩んでしまって、まったく、それは最近のことじゃない。ずっと前から、俺は塔子と話していると落ち着くというか、何と、いうか。

『鬼道が電話してくるなんて珍しいじゃないか、どうしたんだよ?』
「いや…その……、昨日は…」
『昨日?』

 何も思い当たらないらしく、首を傾げている様子が目に浮かぶ。会って話がしたいと、そう思った。

「ホワイトデーだったろう?」
『あーそっか、そうだった。なんだ、鬼道ってそういうのちゃんと気にするんだな!』
「美味しいクッキーを貰ったからな」

 はにかむような笑い声が聞こえた。俺は勿論、ホワイトデー用のプレゼントなんて用意していない。だから、今、するべきことは、伝えるべきことは。そう、一つしかないんだ。

「あれは、本命だったんだよな?」
『そうだよ、普通に渡したけど結構緊張してたんだー』

 俺は小さく深呼吸をして、マントの裾を握りしめた。

「一度しか言わないから、よく聞いていてくれ」
『うん?』
「俺も……好き、だ」

 言い終わった瞬間携帯の電源ボタンを押した、恥ずかしすぎて逃げた、情けない。でも言ってしまった、言ってしまったんだ。手に持ったままの携帯が震えた、着信だ。ディスプレイに表示された名前は、"財前塔子"。

「う、わ、ぁ…」

 これ以上何を言えというのか。慣れない、こういうのは本当に苦手だ。心臓がおかしい、静まれ馬鹿。そして俺は携帯電話を耳に当てた。




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