※年齢操作
小鳥遊と初めて出会ったのは言わずもがな真・帝国の時で。好きになるのに理由はいらないって本当だと知った。ただ理由もなく小鳥遊が好きだった。真・帝国の時は何も言えないまま離れ離れになって、そもそも小鳥遊は不動と付き合っていると思っていた。だから帝国に編入してきたことには驚いたし、心の中でガッツポーズもした。
「なあ、小鳥遊さ……不動と付き合ってんの?」
「それひっどい冗談ね、あり得ないわよ。私が好きなの佐久間だし」
固まったままの俺に小鳥遊はキスをしてカラカラと笑った。俺が一番に報告したのは、鬼道じゃなくて源田だった。ただ何となくだ。
そうやってまるで携帯小説みたいにとんとん拍子で恋人になって。この世に両思いがあるなんて思ってなかった。どのカップルよりも仲が良くてラブラブだとは言えない日々だったけど、小鳥遊が俺を呼んで笑ってくれれば、それで十分幸せだった。
高二の一月。始業式さぼって俺の家でゲームやってたら、小鳥遊が倒れた。怖かった。意識はないけど息はちゃんとしていたから救急車を呼んで、病院に搬送された。
「が、癌……?」
「悪性のもので、できる限りのことはしますが……、もって半年です」
医者は深刻な顔で俺にそう告げた。医者なら治せと掴みかかりながら、これ、マジで携帯小説みたいだと思った。小鳥遊には病気のことを俺が直接伝えることになって、既に二週間。まだ小鳥遊には何も言ってない。上手いこと誤魔化して、小鳥遊は騙されながらベッドの上にいる。
「ちょっと佐久間、あんたリンゴ剥くのヘタクソすぎ。貸して!」
「何だよ、せっかく剥いてやってんのに」
小鳥遊は器用にリンゴを、よくあるウサギの耳付きの形に切って、俺の口元に運んだ。
「小鳥遊が食えよ」
「私が剥いてやったんだから食べなさい」
口を開けると無遠慮に突っ込まれて、俺はサクリと歯を立てた。甘い果汁が広がって、なかなか美味しい。
「…あ、のさ……」
「ん?」
「………夏になったら、海行こう」
「海って、どんだけ先の話してんのよ」
先の話がしたかった。小鳥遊と未来の話をして、約束を取り付けたら死なない気がするから。まだこれからも一緒にいたいと、願って。
「佐久間さぁ、ホントのこと言ったら?」
小鳥遊は窓の外を見ながら呟いた。俺は動揺を悟られないようにと思いながら、黙ってしまった時点で焦ってるのはバレバレだった。小鳥遊はふわりと笑った。
「私の体のことは、私が一番分かるわよ」
視界が涙でぼやけた。俺はただの無力なガキで、病気と向き合うこともできないガキで。小鳥遊は俺なんかよりずっとずっと大人だ。
「私、死ぬんでしょ?」
小鳥遊は泣かなかった。俺はボロボロ涙をこぼしながら彼女を抱き締めた。
「あんた、優しすぎよ、バカね」
泣きたくないのに涙は流れ続けた。それでも小鳥遊は泣かないし、声を震わせることもなかった。
「…海、行こっか。私、水着持ってないから、かわいいの買ってよ」
喉が熱くて目はヒリヒリした。俺は何度も首を縦に振り、嗚咽を堪えながら奥歯を噛み締めた。小鳥遊が生きるためなら何だってするのに、世界は今日も不条理だ。