夕焼けの綺麗な空だった。真・帝国学園が海に沈んで私達は入院させられた。といっても外傷はほとんどない。多少無理な練習をしていたから快調だとは言えないけど。

 病院の屋上には誰もいなかった。そんなに高くもない柵を乗り越えて飛び降りる人はいないのかと思ったけど、そんな人は一人で屋上になんて来れないように見張られてるわよね。

「自殺でもしに来たのかよ?」

 よく聞き慣れた声に振り向けば、そこには不動が立っていた。いつも胸から下げていた紫色の石はない。

「そんな勇気ないわよ」
「ふーん」

 お互いの距離は二メートルくらい、不動はそれ以上近付いて来ようとはしなかった。私は明日退院する。不動はエイリア石の影響がないか念のため検査しているらしくまだ退院できない。つまり、もう会えなくなる、今日でさよなら。

「あんたって、エイリア石がほしくて影山に従ったの?」
「…違う」
「じゃあ何?力じゃないなら……まさか愛情がほしかったなんて言わないでよ?」
「言うかよバーカ」

 不動は眩しそうに目を細めながら笑った。前の下品な笑い方じゃなくて、力のない笑みだった。

「俺がほしかったのは、もっと別のもんだよ」

 それが何なのか不動は言わなかった。もしかしたら自分でも分かってないのかも。私はきっと、不動がほしいものを持ってない。だから、二度と会うことはないんだと思う。私はたぶん不動が好きで、不動もそれに気付いてる。何かしようとは思わない、一緒にいたくもないし、好いてもらわなくてもいい。いっそ忘れてほしい。ひとりになりたかった、世界中の誰もが私のことを忘れて、本当のひとりぼっちになってみたい。その時私は、やっぱり不動を思い出すんだろうか、恋しいと思うんだろうか。

「私ね、あんたのこと大っ嫌い」
「はあ?」
「だから、忘れてくんない?」

 不動は口の端を上げて偉そうに腕を組んだ。

「忘れてやんねーよ」
「…あっそ、」

 私は不動に背を向けて、沈んでいく夕日を見た。目の前で死んでやろうかと思ったけど、飛び降りる勇気は出なかったし、死ぬ理由も見つからなかった。不動の記憶に残るなら、もっと良い女を演じておけばよかったって少し後悔した。

「今気付いたんだけどさぁ」
「何よ」
「俺、小鳥遊のこと好きかもしんねぇ」
「……へぇ」

 不動はそれ以上言わず、私も聞かなかった。夕焼けの綺麗な空だった。




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