鬼道有人は死んだ。影山零治の死がニュースで報道されたときに、あいつは影山が掛けていたサングラスを握ったまま、死んだ。

 勿論本当に死んだわけじゃない、鬼道くんは相変わらずゴーグルをしてマントを羽織り、今日もピッチに立って"天才ゲームメーカー"なんて呼ばれてる。影山が生きていた頃と何も変わってないように見える、でも、違う。どこが違うかと聞かれたら返答に困るが、強いて言えば何もかも違う。

 まず笑い方が胸クソ悪い。前の鬼道くんは笑うとき、ちゃんと心の底から笑えていた。それが今では何だあの、張り付けたような笑顔。見ていて気味が悪いほど完璧に作られた表情で鬼道くんは笑うようになった。
 それから、目。鬼道くんの目を直接拝むことなんて殆どない。俺が言ってるのはゴーグル越しの目だ。ピッチに立っているとき、次はどうしようかと考えを巡らせ鬼道くんと目配せするときに、体に電流のようなものがはしる感覚を味わうことがあった。ゴーグルの奥に潜む赤い瞳は爛々と輝いていたり獰猛だったりで、ぞくりとするほど良い目をしていたのに、今ではもう名残すらない。何もかも諦めたような疲れたような、そんな冷め切った光のない目をしている。

 俺の知っている鬼道有人は、死んでしまったんだ。

「ほら」
「……何だこれは」

 俺は鬼道くんに一輪の花を差し出したが、訝しんで受け取ろうとしなかった。

「菊」
「言い方を変えよう、これはどういう意味だ」
「さーな、自分で考えろ」

 つまるところ、俺は影山に嫉妬している。死んでも尚鬼道くんの心を掴んでいるのはあいつなわけで、死人に嫉妬なんざ笑えもしねぇよ。影山にいつまでも捕らわれている鬼道くんの目に俺が映ることなんて一生ないと思っていた。でも影山の死を聞いたときに俺にもチャンスがあるんじゃないかと勘違いして期待して、そしたら鬼道くんも死んでいて。どうして俺のものになってくれないんだ、どうしてお前は影山が死んでまでそいつに依存するんだ、固執するんだ。

 躊躇いながらも菊を受け取った鬼道くんに腹いせに口付けをして踵を返す。ほらな、何も言ってこない。前の鬼道くんだったら……いや、止めよう。鬼道くんは死んだ、俺は死人に捕らわれたくなんかない。さて、棺桶は何処に行けば買えるんだ?




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