※年齢操作
「そろそろ結婚するか」
「誰と?」
「お前と」
「何言ってんの鬼道くん」
久しぶりに来た鬼道くんの部屋は相変わらずだだっ広かった。突然プロポーズの台詞を口にした鬼道くんの目は真剣そのもので、俺は少しだけ身じろいだ。頭おかしくなったのか?鬼道くんはたまに冗談にならない冗談を言い放つことがあるけど、こんな真剣に言われたことはない。ならば本気、というのもおかしな話で。
「俺はこれからも不動と一緒にいたい」
「いるじゃん、ここに」
「俺は"これからも"と言ったはずだ」
何が言いたいのか分からない。俺は別に鬼道くんから離れようとはしてないし、一緒にいられたらいいなって思ってる。
「鬼道くんどうしちゃったワケ?」
眉間による皺は中学生の時から変わらない。あの頃はこんな長い付き合いになるなんて思ってもみなかった。もう五年以上になるのか。
「お前は、俺が女と付き合ったり結婚したりしたらいなくなるだろ」
「…まあな。何、彼女でもできた?」
「見合い話が、な」
なーんだ、そういうことか。だったら俺は鬼道くんの傍にはいられない。いつかこんな日が来ることは分かっていた。
「じゃあ、終わりだな」
「何故だ」
「だって、俺なんかといるより女と結婚をして普通に家庭持った方が鬼道くんは幸せだって」
パシンと乾いた音が聞こえて、俺の頬がジンジン痛んだ。鬼道くんが俺をぶったのは初めてだった。
「……痛いよ鬼道くん」
「俺の幸せを勝手に決めるなッ!」
あーあ、なんつー顔してんだよ。んなこと自分の親に言えっての。鬼道くんはぶった方の頬に手を伸ばし優しく触れた。後悔すんの早すぎ。
「…すまない」
「いいって」
「赤くなっている」
鬼道くんの体温が気持ちよくて、離れたくないなんて思ってしまった。
「俺、鬼道くんから離れたりしねぇよ」
「…本当か?」
「うん。だって俺、もう鬼道くんなしじゃ生きてけねぇもん」
へらっと笑うと強く抱き締められた。ドレッドヘアーがちくちくと少しくすぐったい。鬼道くんが必死に俺の服を握り締めてきて、どんだけ不安なんだよって笑えた。
「今日は俺帰るよ?今からバイトだし」
「…ああ」
それでも離してくれる気配はなくて、軽く肩を押すと案外すんなりと解放された。鬼道くんの眉間にキスを落として鞄を肩に掛けた。
「不動、」
部屋のドアに手をかけたところで情けない声に名を呼ばれ、俺は鬼道くんを振り向いた。
「信用ないなぁ、大丈夫だって。俺の全部はとっくに鬼道くんのモンだから」
そう笑い部屋を後にした。でかい門から外に出て夕日に染まる帰路を一人歩く。
「さーて、明日から俺生きていけっかな」
呟いた言葉を誰も知らない。冷たい風に身を縮こまらせ小さく笑いをこぼした。
そして俺は二度と、鬼道くんに会いに行くことはなかった。