「お前着替えるの遅すぎ」
練習後、シャワーを浴び制服に着替えて更衣室を出ると、不動が携帯を片手に立っていた。
「…待っててなんて言ってないけど」
「彼女待ってんのがわりぃかよ?」
「べ、別に……」
"彼女"と言われたのが妙に恥ずかしくて私は不動から目を逸らした。不動が歩き出して、私も隣を歩く。この潜水艦、もとい真・帝国学園では選手一人一人に部屋が割り当てられている。不動の部屋は割と奥の方で、そこに行く途中に私の部屋はあった。だからって待ってなくていいのに、変な奴。不動を横目で見れば携帯をいじったままこちらを見ようとしない、何かムカつく。本当にこいつは私のことが好きなんだろうか。
「好きだぜ、誰よりも」
「は?」
「言ってほしそうにこっち見てたから」
不動は携帯を閉じそれをポケットに仕舞ってにやりと笑った。私はその笑い方が嫌いだけど、好きだったりして。不動には意地の悪い笑みがよく似合う。その笑みを見る度に、ああ適わないなって思ってる。
二人で歩いていると、手が偶に触れそうになるのにドキドキしてしまう。ほらまた、少しだけの触れ合いがもどかしい。不動は舌打ちをして私の手を握った。舌打ちするくらいなら握るなと言おうとしたら不動の耳が赤くなってるのに気付いて何も言えなくなった。そういうの、ずるい。
「……不動は、」
そんなに大きな声じゃないのに、潜水艦の中に声が響いた。
「私が死んだら泣く?」
「泣かねぇ」
「私が死んだら死ぬ?」
「死なねぇ」
間髪入れずに返ってくる答えに、私は安心して少しだけ笑った。
「よかった」
部屋の前まで来て、自然と繋いでいた手を離した。不動の手は、思ってたよりも大きかった。
「じゃあ、また明日ね」
「俺は泣かねぇし死なねぇけど、」
何を言い出すかと思えば、不動は私と目を合わせずぽつりぽつりと零す。
「小鳥遊がいなくなるのは嫌だから」
「うん」
「勝手にどっか行ったりするな」
「分かった」
「…そんだけ」
そうして潜水艦の奥深くに消えてしまった。勝手にどっか行っちゃうのは私じゃなくて不動のような気がして、だけどその背を追うことはできずに。私は不動と繋いでいた方の手を強く握り締めた。