「FFIが終わって日本に戻ったら、お前はどうするつもりだ?」

 道也の部屋のベッドで寝ころんでいたら、急にそんな質問をされた。FFIが終わればイナズマジャパンもとりあえず解散で、みんな元の学校に戻る。俺は、どうしようか。学校なんて通ってないしついでに家もない、いや正確にはあるけど帰りたくない。だからって前みたいに馬鹿な連中と連むのも面倒くせぇ。答えられずにいると、道也は椅子から立ち上がりベッドに腰掛けた。ギシリと鳴いたスプリングがこのベッドでセックスしたのを思い出させて、何だか居心地が悪かった。

「決めていないのか」
「まーな」
「だったら私の家に来い」
「は……、はぁ?」

 とうとう頭がおかしくなったのかこいつは。何考えてやがるのか分からねえ。

「いやいや、何でそーなるんだよ」
「いいから来い、命令だ」
「わけわかんねー、俺に命令すんな」

 そういう申し出はありがたいけど何の繋がりもないただのサッカーの監督にそこまで世話になるのは気が引ける。もうとっくに"選手と監督"っつー間柄ではないにしても、だ。

「おかしいって」
「何もおかしくないだろう、冬花もいる」
「あんたってお人好しだよな」

 あの女だって一人の教え子だったのにその親になるなんて、俺には到底理解できない。

「いいだろ、不動。周りには親戚の子だとでも言っておけば何の問題もない」
「あのなぁ…、」

 このおっさん、本気で馬鹿だろ。俺みたいな奴置いとくだけ邪魔だってのに。

「後悔するのは道也だぜ?」
「後悔すればいい」
「…マネージャーはいいのかよ」
「冬花なら大丈夫だ。あの子は案外お前を気に入っている」
「そーかよ…」

 考えるのが怠くなってきた。まだ俺はガキなんだし、大人の世話になっても罰当たんねぇかなって、思って。それにこいつ譲る気ないみたいだし。

「…じゃあ、分かった……世話に、なる」
「よし、それでいい」
「たださぁ、俺とやらしいことできなくなるな?"親戚の子"なんだし、マネージャーもいるし、なぁ」

 からかうようにそう言えば道也は俺に覆い被さって、顎を掬うと深く唇を重ねた。道也のキスはねちっこくてキモチヨくて全部持って行かれそうになる。すげー慣れてるっていうか、大人の余裕なのかもしれない。

「っん、ふッ…ぁ、」

 鼻にかかった声が気持ち悪い、酸欠になりそうで道也の胸を叩くとすんなり離れていった。

「家でも遠慮する気はない」
「お前…よく自分の娘と同い年に手ぇ出せるよな。犯罪だろこれ」
「犯罪じゃない、合意の元だ」
「………」
「違うのか?」
「っ、るせぇ」

 そのしたり顔がムカつく、俺がこの先こいつにかなうことなんてないんだろうなと思いながら、そんなことより同級生と同棲っていろいろとアレなんじゃないか、と。

「冬花はやらんぞ」
「…………わーってるよ」
「何だ今の間は」
「気にしすぎだこの親馬鹿」

 こんな甘ったれた生活を送ることになるなんて、昔の俺は想像もしてなかった。これからどんな暮らしになるかなんて予想だにできないけど、退屈はしねぇんだろうな。落ち着いたら母さんにも会ってみたい。何か、このFFIでサッカー馬鹿に感化された所為か思考回路が前と全然違う。周りの景色も違うものに見えるんだろうか。だったら日本に帰るのも、悪くない。

 俺は目を合わせずに聞こえないほど小さな声で"ありがと"と口にした、人生で初めてかもしれない。道也は俺の髪をくしゃりと撫ぜて微笑んだから、きっと聞こえたんだろうな。




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